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しみじみとした口調で言い切った芳文に、秀明は思わず小さく笑ってから、真顔になって問いを発した。
「ところで、あとどれ位やれると思う?」
「そうですね……、現状は良く分かりませんが、まともに立てない状態ですよね? 肋骨が折れて内臓に刺さると厄介ですし、頭や背骨の損傷は絶対に避けたいので、後は両手足のみで。先輩達の撤収後、偶然を装って俺が回収して、うまく東成大付属病院に搬送させます」
「仕上げは頼む」
「お任せ下さい。精神的に徹底的に痛めつけてやりますよ。先輩の仮のお母上を罵倒したアホの身内とあらば、手加減無用でしょう」
力強く請け負った後輩に、秀明は満足気に応じた。
「良く分かっているじゃないか。かかった費用は全て俺が負担する。遠慮するな」
「ありがとうございます。一割増しで請求させて貰います」
さり気なく告げて来た言葉に、秀明は(相変わらずだな)と失笑しながら通話を終わらせると、携帯を元通りしまい込んでから、数メートル先で暴れている後輩の所に歩み寄った。
「おらおらおら!! こんな時間から、寝てんじゃねぇぞ! てめぇらはガキか!?」
「げほぅっ!」
「ぐあっ!」
地面に蹲っている兄弟の胸倉を掴み上げて殴り倒し、手足を踏みつけて蹴り上げるという情け容赦ない攻撃を繰り出していた隆也の肩に手をかけ、静かに声をかける。
「おい」
「何です、若?」
わざとらしく兄弟に聞こえる様に応じた隆也に、秀明は声を潜めて指示を出した。
「後は手足だけだ。十分以内に引き上げるぞ。芳文が来たから、後は任せる」
「もう少し、痛めつけたかったんですがね。了解しました」
対する隆也も、二人には聞こえない様に声を潜めて言葉を返してから、改めて二人に向き直って声を張り上げる。
「おら、立てと言ってんだろうが!」
「ぐあぁぁっ!!」
そんな騒動を他所に、秀明達は手早く撤収の手配を整えた。
「そろそろ行くぞ」
「和寿にバンを回させます」
「巡回中の警官に見咎められるなよ?」
そして動けなくなった兄弟を放置し、十分後には無事にバンの中で移動していた秀明は、早速ウイッグを外してから、顔全体を覆っていた極薄のラテックス製マスクを、ゆっくりと剥がし取った。
「っはぁ……。意識してなかったが、やっぱり素肌に空気が当たるのは、気持ちが良いな」
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