第5章 気忙しい年の瀬

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 かなり失礼な事を考えていた自覚はあった為、美子が適当に誤魔化すと、それに篠田が笑って応じる。 「白鳥先輩に言わせると、『富川は確かに生物学上の女だが、男社会で健気に頑張っている女性全般に失礼だから、社会学上の女とは認められない』だそうです」 「ですが、いきなり男だけの車に連れ込まれたら藤宮さんが落ち着かないだろうから、付き合う様に言われまして」 「……お気遣い、ありがとうございます」 (気遣いの方向性が、絶対間違っているけどね!?)  完全に呆れ果てた美子は、ここで苛立たしげに質問を繰り出した。 「ところで、どこに向かっているんですか?」 「何だか、白鳥先輩がお話があるそうで」 「一仕事終えるまで、指定の場所で待ってて欲しいそうです」 「……そうですか」 (それならそうと、直接私に連絡をよこしなさいよ! しかもどうして他人を迎えに来させるの!!)  美子は心の中で正当な主張をしたが、二人はそれを読んだかのように弁解してきた。 「それが先輩の用事が何時に終わるか、ちょっと予測が付かないそうで」 「それに加えて、結構凶暴でかなり頑固な女を確保するとなったら、それなりに腕の立つのを用意する必要があるとかなんとか」 「でもさすがに年の瀬ですから、急に言われても暇な人間はそうそう居なくて。それぞれ都合の良い時間帯と場所で、リレー形式で繋ぐ事になったんです」 「先輩との待ち合わせ場所で一人で延々と待たせたら、変な人間に絡まれる可能性もあるので、連れを用意してますから」 「はぁ……」 (何、この人達、人の考えてる内容が分かるの!? というか先輩同様、何気に失礼よね!?)  そんな風に密かに腹を立てながら、美子は軽く嫌味を口にした。 「お二人とも、年の瀬に身体が空いていらっしゃっるんですね。どんなお仕事を?」 「俺はフリーライターで、こいつは菓子職人です」 「先輩! ショコラティエですってば!」 「え? あの……、お二人とも東成大の卒業生ですよね?」  意外に思えたその進路に、二人は今度は苦笑いで答える。 「う~ん、良く言われるんですよね~。武道愛好会のメンバーって、様々な格闘技での有段者でありながら東成大に入学した人ばかりですから、色々な意味で突きぬけてる人間ばかりで。真っ当な職に就いたのは、今の所半分くらいかな?」
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