第5章 気忙しい年の瀬

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「俺らなんか可愛い方ですよ。ホストになった奴もいるし、放浪の旅に出て行方不明になった奴もいるし、住居不定無職でオンライン取引で金だけガバガバ稼いでいる奴もいるし。後はメイクアップアーティストに、ラーメン店の店長? 他にも色々、変わり種がいますけど」 「でも今のところ、犯罪者とか前科持ちはいませんよ? 警察に捕まる様なヘマしませんから」 「しかしあの白鳥先輩が、官僚になって今はサラリーマンって、何の冗談だ」 「本当ですよね~。真っ先に道を踏み外すと思ってたのに。同じくツートップの小早川先輩なんて、弁護士ですよ弁護士」 「あの人、何かやらかしたら、自分で自分を弁護する為に弁護士になったんだろ」 「ですよね~」  そう言ってケラケラと笑い合う二人に、早くも美子の忍耐力は限界に近付いた。 (やっぱり奇人変人の集団……。絶対にこれ以上、お近づきになりたくないわ)  そう心に決めて、それからは余計な事は言わずに黙っていた美子だったが、繁華街のコインパーキングに車を入れて三人で歩き始めてから、訝しげに前を歩く二人に尋ねた。 「あの……、待ち合わせ場所って、一体どこですか?」 「ええと、この辺の筈……」  するとキョロキョロと周囲を見回していた富川が、声を張り上げて大きく手を振った。 「あ、いた! ヤッホー! 和臣、久礼! 久し振り!」  その声に、前方で所在なげに佇んでいた男二人が、揃ってびくりと反応してから項垂れる。 「げ! 富川先輩に篠田先輩!?」 「年も押し詰まってから、このメンツかよ……」  富川と篠田とは違い、明らかに現役学生と分かる風体のその二人に、富川は上機嫌に美子を紹介した。 「お待たせ! この人が藤宮さんよ。恐れ多くも白鳥先輩の女さん。くれぐれも粗相の無いように。藤宮さん、こっちが後輩の君島和臣に本郷久礼です。からかってやって下さい」  その台詞に、当事者の二人が何か言いかける前に、美子が盛大に反応した。 「ちょっと待って! 『白鳥先輩の女さん』って何!?」  その抗議の声に、富川がきょとんとして問い返す。 「え? じゃあ一見れっきとした女性に見えるけど、男さんとか元男さんなんですか?」 「女に決まってます!!」 「じゃあ問題無いって事で。じゃあ後宜しく! これからデートだから。じゃあね~」 「それでは俺も失礼します。どうぞごゆっくり」 「何をどうごゆっくりなのよっ!!」
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