第5章 気忙しい年の瀬

11/13

243人が本棚に入れています
本棚に追加
/142ページ
 そんな美子の怒声もなんのその。二人は笑って彼女を後輩に押し付けて、明るく笑いながら去って行った。 (もう嫌……、何なの、この人達)  それから必死に怒りを堪えながら、待つ事十五分。美子は押し殺した声で、側にいる二人に問いかけた。 「ねえ……。もう帰って良いかしら?」 「いや、困ります!」 「ここであなたに帰られたら、俺達もれなく制裁コースですから!」 「じゃあ、せめて場所を移動しない?」 「それが、先輩からの指示が」 「こに入るから、入口前で待っていろと言われまして」  打てば響く様に返された言葉に、美子の携帯を握り締める手に、より一層の力が籠る。 (全く……、さっきから電話は繋がらないし、メールも返信無しって。人をそっちの都合で寒空の下で待たせるなんて、何を考えてるのよ!)  それから更に十分が経過し、幾らコートを着て寒さは凌げているとしても、精神的な問題から、美子は目の前の建物の中に向かって歩き出しつつ二人に断りを入れた。 「もう我慢できない。帰れないなら、先に中に入って待ってるわ」 「ちょっと待って下さい!」 「藤宮さんと中で待ったりしてたら、俺達確実に処刑コースですから!」  必死の形相で追い縋った二人だが、一応足を止めた美子は、周囲をぐるりと見回しながら怒りを露わにして怒鳴りつけた。 「そんな事、知った事じゃないわよ! 大体ね、ラブホの入口前で男女三人で佇んでるから、さっきから目の前を通る人から例外なく変な目で見られてるのよ? あなた達、全然気にならなかったわけ!?」 「勿論、それは気になってましたが!!」 「万が一、タチの悪い奴に絡まれた場合、二人一組じゃないと拙いとの判断で!」 「もうあんた達自体が、タチが悪いわ!」 「……うわ、否定できない」 「否定しろよ!」  思わず本郷が手で顔を覆って呻き、君島がそんな相方を叱咤している隙に、美子はさっさと建物の中へと入って行った。そして壁の片方にズラリと並んでいるパネルを見上げて、真顔で考え込む。 「取り敢えず、部屋ってここで選ぶの? フロントらしき場所が無いから、このパネルのボタンかしら? もうこの際人目が無くて、寒くなければどこでも良いわよ。 あ……、鍵が出てきた。じゃあ、この番号の部屋に行けば良いわけね?」
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

243人が本棚に入れています
本棚に追加