第5章 気忙しい年の瀬

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 そんな自問自答をしながら、美子が適当に明るく表示されているパネルの下のボタンを押すと、そのパネルの点灯が消えると同時に横からカードキーが出て来た為、彼女はあっさりとそれを手に取った。その一連の動作を目にした君島達は、盛大に顔を引き攣らせる。 「何でそんなに思い切りが良いんですか!? 男らし過ぎる!」 「しかもビギナーっぽいのに、何あっさりチェックインしてるんですか!?」 「勘。さあ、行くわよ」  そしてずんずんと奥のエレベーターに向かって歩き出した彼女の手を、二人は両側から掴んで必死に押し止めた。 「ちょっと、離しなさいよ」 「本当に勘弁して下さい!」 「俺はまだまだこの世に未練が」 「和臣、久礼。お前達、何を騒いでいるんだ? それに俺は、外で待っていろと言った筈だが?」  そして三人が揉めていた背後から、突如として不機嫌そうな声がかかった瞬間、二人は即座に美子の手首から手を離して勢い良く振り返り、上半身を九十度近くまで折り曲げた。 「押忍、お疲れ様です!」 「ご到着を、お待ち申し上げておりました!」 「……やっぱり帰って良いかしら?」  如何にも体育会系的な挨拶をする二人から、美子は諸悪の根源であろう男に視線を向けて問いかけると、秀明はそれを無視して苦笑し、後輩達に声をかけた。 「今日はすまなかったな。彼女の相手をするのは大変だっただろう。もう帰って良いぞ」 「はい、失礼します!」 「どうぞごゆっくり!」  途端に顔付きを明るくして、再度一礼してから脱兎の勢いで走り去る彼等を見送ってから、秀明は美子に向き直った。 「その部屋が気に入ったのか? じゃあそこに入るぞ」  さり気なく美子の手の中に有るキーに目を向けた秀明は、そこに記載されている番号を確認して、突き当たりの奥にあるエレベーターに向かって歩き出した。そして仏頂面の美子が、その後に付いて歩き出す。 「こんな所で、一体、何の用があるわけ?」 「人目を気にせずに、ちょっと踏み込んだ話がしたかっただけだ。とは言え、俺の部屋に連れ込んだら、社長に良い顔をされないからな」  それを聞いた美子は、軽く眉を上げる。 「自宅でもラブホテルでも、大して変わらないと思うけど?」 「それはちょっとした見解の相違だ。それに近くで用があったから、移動の手間を省きたかった事もある」
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