第6章 予想外の展開 

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 殆ど惰性的に室内へと入った美子は、部屋の中央に向かって歩きながら、興味深そうに周りを見回した。 (へえ? こういう所って初めて入ったけど、結構まともかも。もっとけばけばしいのかと思っていたけど、色調も落ち着いているし)  しみじみとそんな事を考えていると、ドアに近い方から声がかけられる。 「おい、コートを掛けるから、こっちによこせ」 「あ、……はい、お願い」 「ああ」  秀明がさっさと着ていたコートとスーツの上着を脱ぎ、ネクタイも外して纏めてハンガーに掛けているのを見た美子は、慌てて和装コートを脱いで渡した。それを秀明がハンガーに掛けて、目の前のクローゼットにしまっているのを見て、漸く我に返る。 (ちょっと待って! 怒りに任せて思わず入っちゃったけど、どうして私、こんな所に居るのよ!?)  傍目には落ち着き払っている様に見えながら、美子が内心で激しく動揺していると、クローゼットの扉を閉めた秀明が、今度は慣れた動作で冷蔵庫を開け、中を覗き込みながら尋ねてくる。 「何か飲むか? あと食事がまだなら、ルームサービスも頼めるが」 「いえ、結構よ。踊り納めが終わってから、教室の皆で軽食を摘んで来たから」 「そうか? それなら好きに飲ませて貰う。そこに座れ」  そして素早く缶を一本だけ抜き取った秀明は振り返り、立ったままの美子に手振りで場所を指し示した。そこを見た美子は、僅かに口元を引き攣らせる。 「座れって、ベッドなんだけど……」 「椅子の座り心地が悪そうだ」 (何で断言……。しかもどうしてジンジャーエールなわけ?)  戸惑う美子には全く構わず、秀明は彼女の横を通ってベッドの縁に座り、早速缶を開けて中身を飲み始めた。言われた事に困惑はしたものの、わざわざ目の前に椅子を引いて来て座るのもどうかと考えた美子は、結局無言で秀明の横に座った。
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