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しかし彼女がさり気なく二人の間に、自分の持参したバッグを置いたのを横目で確認し、秀明はジンジャーエールを飲みながら、彼女に分からない程度の笑みを漏らす。それとほぼ同時に美子が身体を斜めにしながら、本題に入る様に促した。
「それで? お話と言うのは何ですか? さっさと済ませて頂きたいのですが」
「ああ、話か……。そうだったな。深美さんからの手紙が、先日無事に自宅に配達されてね。あれを投函したのは美子だろう? どうもありがとう」
「……いえ、どういたしまして」
なにやら勿体ぶった口調の割には、分かり切った内容であった為、美子は一瞬肩透かしを食らった気持ちになった。そんな美子に軽く笑いかけながら、秀明が話を続ける。
「嬉しかったが、ちょっと驚いたな。一瞬、『あの世から届いたのか?』とか馬鹿な事を思った」
「叔母達にも同様の人がいて、『驚いたわよ、美子ちゃん』と苦笑しながら電話してきた人もいたわ」
「そうか。俺だけじゃなくて良かった。それで、俺への手紙の中身だが、全く深美さんが容赦なくて。あれこれ耳に痛い事が、書き連ねてあったな。一々尤もだから、否定もできないし。まあ、俺を息子同然に思ってくれていた故だろうし、苦笑しながら読んだが」
「……そうですか」
(何なの? わざわざそんな話をする為だけに、こんな所に呼び出したわけ?)
くすくすと笑い出した秀明を見て、美子は半ば呆れたが、本題はここからだった。
「ところで手紙と言えば、美子の分だけ預かって無かったとか?」
秀明が横のテーブルに缶を置きながら、チラリと思わせぶりな視線を投げかけて来たと同時に、美子は顔を強張らせて情報の発信源を尋ねる。
「それ……、誰から聞いたの?」
「君の可愛い妹達四人から」
(あの子達! 何をヘラへラと喋ってるのよ!!)
あっさりと即答されて、美子は怒り心頭に発したが、秀明が更に神経を逆撫でする様な口調で問いかけてくる。
「その事についての感想は?」
「……何よ。そのしたり顔は?」
「仲間外れみたいで、ショックを受けて無いのかなと。赤の他人の、俺でさえ貰ってるのに」
既に分かっている事をわざわざ口にされた事で、美子の忍耐力は早くも限界に達した。そして勢い良く右手を振り上げた彼女は、狙いを離さずに秀明の頬を打って怒鳴りつける。
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