第6章 予想外の展開 

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「ほら、渡したぞ。無くすなよ?」  まだ状況判断ができずに呆けていた美子の手に、秀明がその封書を握らせた途端、一気に正気に戻った彼女は驚愕の叫び声を上げた。 「え、えぇぇぇぇっ!? なっ、何で、どうして、あんたがこれを持ってるのよっ!!」 「俺宛の物の中に、同封されていた」  軽く手にしている封筒を持ち上げて見せると、美子が驚きを抑え込んで考え込む。 「そういえば、確かに窓口で他の物と一緒に料金を計算して貰った時、どうしてあなた宛ての物だけサイズが一回り大きいのかしらと思ったけど……。そうじゃなくて! じゃあどうして届いた時点で渡してくれたり、教えてくれないのよ! 意地が悪過ぎるんじゃない!?」  美子にしてみれば当然の糾弾だったのだが、秀明は小さく肩を竦めて弁解した。 「すぐに渡したいのは山々だったが、同封されていた深美さんからの手紙で『美子が大泣きしたのが分かったか、秀明君が泣かせたら渡して頂戴』と指示されていたからな」 「何なのよ、それはっ!!」 「嘘じゃない。ほら、これがその事が書いてある部分だ」  封筒から取り出した何枚かの便箋のうち、該当箇所を抜き出して秀明が差し出した為、美子は封筒を傍らに置いてそれを受け取り、内容を確認し始めた。そして確かに母の筆跡である事を確認した美子が黙り込むと、秀明が溜め息を吐いてその内容について言及する。 「お前があまり自分の感情を表に出さないタイプなのを、深美さんが随分心配してたみたいだな。自分の葬式で色々頑張り過ぎて神経をすり減らしたり、無制限にストレスを溜め込みそうだと懸念したらしい。だから変わらず淡々としている様なら、俺に『人間サンドバッグかサッカーボールになって、ストレスを発散させてあげて欲しいの。秀明君なら美子を怒らせるのは得意でしょう? 怒ったら泣くと思うし、宜しくね』だと」 「…………」  黙り込んだ美子の手の中で、秀明宛ての便箋がぐしゃりと音を立てて皺になった。そして怒りを溜めこんでいるかの如く、無言のままボタボタと便箋に涙を滴り落とさせている美子に、秀明がのんびりとした口調で声をかける。 「取り敢えず、泣くか怒るか、どちらかにした方が良いと思うぞ?」  その台詞で色々振り切れたらしい美子は、便箋を放り出し、泣き叫びながら両手で秀明の胸をボカボカ叩き始めた。
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