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「ばっ、馬鹿ぁぁぁっ!! 持ってたのなら、さっさと出しなさいよ! 本当に底意地悪いわね!」
「ああ、俺の性格が悪いのは自覚があるし、周囲からもそう思われてるぞ?」
そこで今度は、美子は胸倉を掴んでがくがくと前後に揺すり始める。
「開き直る気!? この間、私がどれだけ惨めな思いをしたと思ってるのよ!?」
「分かった分かった。ほら、好きなだけ殴るなり蹴るなりして良いぞ?」
両腕を広げて無抵抗をアピールした秀明に、美子が盛大に噛み付いた。
「私、そんなに乱暴者じゃ無いわっ!!」
「そうか? 初対面で蹴りを入れられたが」
「一々、言い返してくるんじゃないわよっ!!」
「それに今、随分叩かれたし」
「叩かれる様な事を、しているからでしょうが!!」
そんな調子で散々叱り付けた後、怒る気力が無くなったのか美子は秀明にしがみついて「うえぇぇっ」と泣き出し、秀明は一瞬驚いた顔を見せたものの、苦笑して背中に腕を回して軽く撫でてやった。
そのまま愚痴と文句と悪態交じりの泣き声が、暫く続いていたが、次第に美子の泣く勢いが弱まり、頃合いを見て秀明が冷静に声をかけた。
「少しは落ち着いたか?」
「……う、はい。すみません」
我に返って、顔を付けていた部分の布地が自分の涙でしっとりと濡れているのを認識した美子が、気まずそうに身体を離して頭を下げると、秀明が何気ない口調で言い出した。
「それなら寝るか。結構良い時間になったし」
「え? 帰るんじゃないの!?」
まだ深夜と言えるほどの時間でも無かった為、思わず慌てて問い返した美子だったが、それに秀明は盛大に顔を顰めて言い返した。
「これから? その化粧の崩れた酷い顔で? それ以前に、俺は明日までは仕事なんだ。勤務時間が終わっても色々忙しかったから、もう移動するのが面倒だ。このまま寝て、明日早めに起きて移動する」
「……申し訳ありません」
本気で嫌そうに顰められた顔を見て、美子は神妙に頭を下げた。すると秀明が立ち上がって歩き出す。
「じゃあ、皆から預かっておいた物を渡すぞ」
「皆からって?」
戸惑う美子には構わずクローゼットまで行った秀明は、今度は鞄をそのまま持って来て、机の上に持参した物を並べ始めた。
「美恵ちゃんと美実ちゃんからは、美子が普段使ってるクレンジングや化粧品のセット」
「あの二人だったら、知っているわね……」
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