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「美野ちゃんからは、伸縮性の着物ハンガー」
「……気が利くわね」
「それから美幸ちゃんは、パジャマって言ってたな」
さり気なく言われた内容に、美子は微妙に顔を引き攣らせた。
「あの子、何を準備してるのよ。じゃあ皆は、私が今日ここに来てるのは……」
「当然、了承済みだ。社長には適当に誤魔化しておくからと言っていたしな」
「……そうですか」
大き目のポーチやビニール袋、紙袋を説明付きで出された美子は、妹達には今夜の事は筒抜けかと、盛大な溜め息を吐いた。それを見た秀明は、自身の濡れているワイシャツを軽く摘み上げて見下ろしながら、バスルームに向かって歩き出す。
「結構濡れたからちょっと気持ち悪いし、シャワーを浴びがてら着替えてくる」
「あ、はい……、どうぞ」
思わず反射的に頷いてから、美子は改めて渡された物をしげしげと眺めた。
「もう、あの子達ったら、何を考えてるのよ。確かにアメニティグッズはあっても、使い慣れた物の方が良いから嬉しいけど。着物用のハンガーは、本当に助かったわね」
それから手早く帯を解いて着物を脱ぎ、ハンガーを伸ばして着物や帯を掛け、紐などの小物を手早く纏めた美子は、長襦袢に腰紐を締めた状態になってから、美幸が寄こしたという紙袋に手を伸ばした。
「じゃあせっかくだから、これを着ようかしら」
そして中身を取り出そうとした美子は、縁を留めてあるシールを剥がして中を覗き込み、意外そうに首を傾げた。
「……え?」
疑問に思いつつも中に入っている布地を掴んで引っ張り出した美子は、明らかになったその代物を見て、こめかみに青筋を浮かべる。
胸下で切り替えて、フレアーが広がっているハイウエストのワンピースタイプのそれは、色こそ光沢のある明るいアイボリーではあったが、そもそも生地自体がしなやかで薄く、デザイン的にもオフショルダー仕立ての胸元とミニ丈の裾が、幅広く透けているレースのラインになっており、間違っても一般的なパジャマとは言い難い代物だった。
「美幸……。あの子ったら、一体何を考えてるのよっ!!」
元通り袋の中にそれを突っ込み、怒りに任せて叫んでから、美子はこの間すっかり忘れていた物の事を思い出した。
「そうだ、手紙!」
慌ててベッドに戻ると、そこに放置されていた封筒を発見し、美子は思わず安堵の溜め息を漏らす。
「良かった。家に帰って、落ち着いたら読もう」
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