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美子の挨拶に妹達も唱和し、藤宮家の朝の光景は、表面上はいつもと変わらない物だった。
その後朝食を食べ終え、台所も片付け終わって一仕事終えた美子は、自室に戻ってバッグの中に入れてあった封筒を取り出した。
「さてと、手紙を読んでみましょうか」
そして椅子に座った美子は、机の引き出しから鋏を取り出して慎重に端を切り、どきどきしながら中に入っている、折り畳まれた便箋を取り出す。
「どんな事が書いてあるのかしら?」
そしてそれを広げた瞬間、真っ先に目に入って来た一文に、美子の目が丸くなった。
『美子。困った事に、秀明君は三白眼の黒兎なの』
「……はぁ? いきなり、何?」
全く予想外だった言葉の羅列に、美子は呆然となりながらも目で文章を追った。
『見た目はそんなに悪くないんだから、お愛想振り撒いて耳と尻尾を揺らしていれば、皆に可愛がられる筈なのに、世の中を斜めに見ちゃってて、それが出ている目つきの悪さで台無しになっているのよね』
「世の中を斜めに見てるとかは、納得だけど……」
頭痛を覚えながら、思わず考えを声に出してしまった美子だったが、気を取り直して読み続けた。
『だけど誰かが構ってくれないと、寂しくなって死んじゃうから、狼の皮を被って周りにちょっかいを出して、驚かせては喜んでいる困った子なのよ』
そこまで読んで、美子は両手で便箋を持ったまま、がっくりと項垂れる。
「お母さん……、狼の皮を被ってるんじゃなくて、狼そのものだと思うんだけど? それに構って貰えないと死んじゃうって、ありえない……」
自分の母親は何をどう考えていたのかと、正気を疑いかけていると、次の文で美子は盛大に溜め息を吐いた。
『だから美子に、秀明君の躾をお願いしたいんだけど』
「あのね……、躾って何?」
思わず突っ込みを入れた美子だったが、誰も答えてくれる者はなく、静かな室内に彼女の声が虚しく響く。
『妹が多いから、美子にはお手の物でしょう? 良い事をしたら誉める。悪い事をしたら叱る。基本的な事で良いから。大丈夫。まだまだ矯正は効くわ』
「……狼皮の兎の躾なんて、やった事は無いわよ」
妙に自信ありげな書き方に、美子はふて腐れた様に呟いた。そして早くも、深美の残した文章が終わりを迎える。
『それじゃあ、後の事は宜しく。秀明君と仲良くね』
「……ええと、これだけ?」
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