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「どうしよう……。美子姉さんの顔が、益々険悪になってきてるんだけど」
「美野、あんたがここで気を揉んでも、どうしようもないから」
おろおろしている美野と場所を代わり、美恵が襖の向こうを窺い始めると、二人は再びゲームを始めていたが、ここで秀明が何気ない口調で言い出した。
「……ところで美子」
「五月蠅いわね。話しかけないで」
順番が回って来た為、次にどこへ置くべきかと駒を片手に真剣に悩んでいた美子は、秀明の台詞を素っ気なくぶった切った。それに苦笑した秀明は、美子が駒を置いたのを見てから自身も駒を取り上げ、狙った所に置きながらさり気なく話題を出す。
「両親が亡くなった場合の、一般的な服喪期間と言うと、一年位だよな?」
「そうね。四十九日までは忌中で、一周忌までは喪中じゃない?」
盤上を凝視したまま、殆ど無意識に答えた美子に、秀明は真顔のまま問いを重ねる。
「その間、祝い事はしないよな?」
パチンと駒を置きながらの台詞に、美子は駒をつまみ上げながらも、僅かに顔をしかめながら言い返した。
「しないと言うか……、常識的に考えたら、そういう人をわざわざ結婚式とかに招かないものでしょう? 結婚する人が気にしないなら、構わないかもしれないけど」
そう告げてから盤上に視線を戻し、また難しい顔で悩んだ末駒を置いた美子に、秀明は単なる世間話の様に続けた。
「それなら喪中の人間が、その期間に結婚するのはどうなんだろうな?」
パチンと黒を置かれて、白い駒がパタパタと連続してひっくり返されていくのを見た美子は、顔を若干引き攣らせながら、苛立ち混じりに言い返した。
「普通はしないものなんじゃない?」
「そうか?」
「だけど結局は、それも当人の考え方次第でしょう。そもそも他宗教の人はそこら辺には拘らないかもしれないし、仏教徒でも婚約する人は婚約するし、結婚する人は結婚するわよ。その前にきちんと忌払いとかをすれば良い筈だしね」
そして再び自分の番が回って来た為、駒を狙った場所に置いて黒をひっくり返す。すると秀明は駒を掴みながら、真顔で問いかけた。
「美子だったらどうだ?」
「呼び捨ては止めて」
こちらも真顔で自分の顔を見据えながら宣言してきた為、秀明は苦笑しながら駒を置いた。
「じゃあもし君自身が、今、結婚を考えていたらどうする?」
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