243人が本棚に入れています
本棚に追加
その問いかけを、あくまで一般的な仮定の話と認識していた美子は、次の一手をどうしようかと真剣に悩みながら、自分なりの答えを口にした。
「そうね……。『どうしてそんな期間に結婚したんだ』と色々詮索されるのは嫌だわね。デキ婚なのかとか、痛くもない腹を探られそうだわ」
「それはそうだな」
それに秀明は素直に頷いたが、美子は更に意見を述べる。
「それに相手にだって悪いわよ。『非常識だ』とか『気落ちしてるところに何をつけ込んでるんだ』とか、周りから言われそうだし」
そう言って駒を置いた美子に、秀明が何でもない様に答える。
「俺は、そういう事は別に気にしないが」
そこで美子は、挟んだ駒をひっくり返しながら、殆ど無意識で気のない返事をした。
「そう。太い神経を持っていて良かったわね」
「……そうだな」
あまりにもサラリと返されて、さすがに気分を害した秀明は、腹いせとばかりに次の手で立て続けに白い駒をひっくり返した。
「あぁぁっ! ちょっと!! 何でここでそこに置くのよ!」
「ここが一番ひっくり返せるからに決まってる」
当然至極とばかりに堂々と言い返された美子は、盛大に顔を引き攣らせた。
「あっ、あなたね……。少しは博愛精神と言うものを」
「そんな物は元から持ち合わせていない。ちょっとムカついたしな」
「私が何をしたって言うのよ! 普通にオセロをしてただけじゃない!?」
不機嫌そうに言い放った秀明を、堪忍袋の緒が切れた美子が怒鳴りつける。その一連のやり取りを聞いていた彼女の妹達は、襖の後ろで揃って頭を抱えてしまった。
「何であれをスルーするのよ。姉さん、鈍過ぎるわ」
「と言うか、江原さんが何て言って、自分が何を言ったのか、全然意識して無いわね。賭けても良いわ」
「やっぱり何かに集中すると、他の事への注意力が一気に削げ落ちるのね……」
「他に集中してるから、本音だだ漏れとも言えるけど。やっぱり江原さん、正面切って言わないと無理じゃない?」
美幸が実に真っ当に聞こえる意見を口にしたが、美恵は真顔で首を振った。
「一晩一緒に過ごしたのに、どう見ても江原さんとは何も無かったとしか思えないし。正面切って言って、あの天の邪鬼な姉さんが、素直に頷くと思う?」
「…………」
どう考えても美子が素直に頷くとは思えなかった為、問われた三人は全く反論できず、黙り込んで項垂れてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!