第8章 喪中期間 

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 その問いかけを、あくまで一般的な仮定の話と認識していた美子は、次の一手をどうしようかと真剣に悩みながら、自分なりの答えを口にした。 「そうね……。『どうしてそんな期間に結婚したんだ』と色々詮索されるのは嫌だわね。デキ婚なのかとか、痛くもない腹を探られそうだわ」 「それはそうだな」  それに秀明は素直に頷いたが、美子は更に意見を述べる。 「それに相手にだって悪いわよ。『非常識だ』とか『気落ちしてるところに何をつけ込んでるんだ』とか、周りから言われそうだし」  そう言って駒を置いた美子に、秀明が何でもない様に答える。 「俺は、そういう事は別に気にしないが」  そこで美子は、挟んだ駒をひっくり返しながら、殆ど無意識で気のない返事をした。 「そう。太い神経を持っていて良かったわね」 「……そうだな」  あまりにもサラリと返されて、さすがに気分を害した秀明は、腹いせとばかりに次の手で立て続けに白い駒をひっくり返した。 「あぁぁっ! ちょっと!! 何でここでそこに置くのよ!」 「ここが一番ひっくり返せるからに決まってる」  当然至極とばかりに堂々と言い返された美子は、盛大に顔を引き攣らせた。 「あっ、あなたね……。少しは博愛精神と言うものを」 「そんな物は元から持ち合わせていない。ちょっとムカついたしな」 「私が何をしたって言うのよ! 普通にオセロをしてただけじゃない!?」  不機嫌そうに言い放った秀明を、堪忍袋の緒が切れた美子が怒鳴りつける。その一連のやり取りを聞いていた彼女の妹達は、襖の後ろで揃って頭を抱えてしまった。 「何であれをスルーするのよ。姉さん、鈍過ぎるわ」 「と言うか、江原さんが何て言って、自分が何を言ったのか、全然意識して無いわね。賭けても良いわ」 「やっぱり何かに集中すると、他の事への注意力が一気に削げ落ちるのね……」 「他に集中してるから、本音だだ漏れとも言えるけど。やっぱり江原さん、正面切って言わないと無理じゃない?」  美幸が実に真っ当に聞こえる意見を口にしたが、美恵は真顔で首を振った。 「一晩一緒に過ごしたのに、どう見ても江原さんとは何も無かったとしか思えないし。正面切って言って、あの天の邪鬼な姉さんが、素直に頷くと思う?」 「…………」  どう考えても美子が素直に頷くとは思えなかった為、問われた三人は全く反論できず、黙り込んで項垂れてしまった。
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