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妹達がそんな風に戸惑いと諦めの境地に至っている事など夢にも思っていない美子と、思惑をはっきりと面に出さないままの秀明は、それからも延々とゲームを続け、結局十回対戦してから切り上げる事になった。
「今日は楽しかった。付き合ってくれてどうも」
「……どういたしまして」
(これ以上は無い屈辱だわ……。十回やって、一回も勝てないなんて)
一応秀明を見送る為、玄関まで付いて行った美子が、悔しさで歯ぎしりしたいのを必死に堪えていると、靴を履いた秀明が、若干憐れむ様な表情で言い聞かせてくる。
「そんなに落ち込まなくても……。次にやるまでには、博愛精神を身に付けておく様に努力す」
「実力で勝つわよ! 用が済んだならとっとと帰って!!」
美子は秀明の台詞を遮りつつ怒鳴りつけて玄関から叩き出したが、彼はその扱いに気を悪くするどころか、楽しげに笑いながら藤宮邸を後にした。
「もしもし? 今日のあれは、一体どういう事なの?」
その日の夜。美恵が電話をかけて日中の事を非難がましく問い質すと、秀明は電話越しに苦笑しながら応じた。
「単に、彼女の様子を見に行っただけだ。思ったより元気そうで良かったな」
「あまり元気じゃ無いですね。あなたに惨敗したショックで、今日は早々に布団をかぶって寝ちゃったんですが?」
それを聞いた秀明が思わず噴き出した様子が伝わり、少し間をおいてから、何とか笑いを抑えている感じで声をかけてきた。
「そうか。やっぱり情緒不安定気味らしいが、お姉さん思いの妹が四人もいるから、あまり心配はしていないよ」
「それで? 本当に喪中の期間は結婚しない気?」
「別に、急がなければならない理由は無いからな。口さがない連中がつまらない事を好き勝手言うのを、美子の耳に入れたくも無いし」
完全にいつもの調子に戻って淡々と述べてくる秀明に、美恵が疑わしそうに尋ねる。
「……結構過保護?」
「さあ……、どうかな?」
そこで電話越しに面白がる様に言ってきた為、美恵はつい冷やかす様な口調で言ってみた。
「まあ、じっくり口説き落とすつもりだって言うのなら、好き好んで邪魔はしないけど。余裕かましてて、いつの間にか横からかっさらわれても知らないわよ?」
それを聞いた秀明は一瞬黙り込んでから、先程の発言についての感想を、常より低い声で述べる。
「……随分、面白い事を言う」
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