第9章 予想外の話

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 自分なりに良い様に表現した気遣いをばっさりと否定されて、美子は溜め息を吐きたくなったが、その表情を見た照江が焦った様に両手を振って弁解してくる。 「ごめんなさい、誤解しないでね? 何も美子ちゃんに文句を言いに、わざわざここまで来た訳じゃないのよ」 「はぁ……」 (だったら何なの?)  この義理の叔母の意図が全く掴めずに困惑した美子だったが、次の台詞を聞いた衝撃で、思わず目を見開いた。 「美子ちゃん。俊典のお嫁さんになってくれない?」 「はい? あの、今、何て仰いました?」  当惑した美子に、照江が真剣な顔付きで畳み掛ける。 「だから、美子ちゃんに俊典と結婚して欲しいの」 「差し支えなければ、理由をお伺いしたいのですが」  あからさまに拒否も出来ず、取り敢えず詳細を聞いてみようと美子が促してみると、照江は重い溜め息を吐いてから、苦渋の表情で話し出した。 「俊典が主人の後継者を目指して、一昨年から主人の秘書になって色々勉強しているのは、美子ちゃんだって知っているでしょう?」 「はい、勿論存じています」 「だけどさっきも言ったけど、あの子は母親の私から見ても何というか意欲や迫力に欠けるし、何か一本ピシッと通っている感じがしないし、深謀遠慮が感じられないのよ」  親馬鹿などではなく、寧ろ第三者よりも冷静に息子を評したその態度には共感を覚えた美子だったが、恐らく彼女が比較対照にしているのが、彼女の義父や夫であるのが容易に察せられた為、さすがに美子は俊典を不憫に思って彼を庇った。 「叔母さん、俊典君はまだ二十代半ばですよ? 頭角を現すのは、まだまだこれからじゃありませんか。確かにお祖父さんや叔父さんと比較したら気が揉めるかもしれませんが、そんな風に急かしたら可哀想だと思います」 「それは私も思ったわ。だからせめてしっかり者の妻が、あの子を支えてくれれば良いと考えたの。だから美子ちゃんに、俊典と結婚して貰いたいのよ」 「お話の向きは分かりましたが……、買い被り過ぎではないでしょうか?」  控え目に辞退しようとした美子だったが、照江は真剣な表情のまま首を振った。 「そんな事は無いわ。前々から考えてはいたんだけど、精進落としの時の美子ちゃんの凛とした立ち居振る舞いと毅然とした対応を見て、あの頼りない俊典の背中を叩いて励まして支えてくれるのは、もう美子ちゃんしかいないと確信したの!」
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