第9章 予想外の話

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「はぁ……、恐縮です」 (あれで、目を付けられたわけね……)  一気に表情を明るくして照江が語気強く訴えてきたのを聞いて、美子は思わず項垂れそうになった。そんな彼女には構わず、照江の独白めいた訴えが続く。 「今までも考えてはいたんだけど、俊典の方が一つ下だから学生だったり、独り立ちしてもいない状態だったから、こちらから口にする事はできなかったの。それに優子義姉さんや恵子義姉さんも、息子さんの結婚相手に美子ちゃんの事を狙っていたから、あまり迂闊な事は言えなくて」 「そうでしたか……」 「でもそうこうしているうちに、お義姉さん達の所は次々にお嫁さんを迎えたし、待てば海路の日和ありってこの事よね! それに美子ちゃんとだったら、私、嫁姑としても上手く付き合えると思うの。後援会だって納得するし、寧ろ諸手を挙げて賛成してくれるわ。何と言っても、本来お義父さんの後を継ぐはずだった、昌典義兄さんの娘さんなんだもの!」  握り拳で鼻息荒く主張する照江に若干引きながら、美子は何とか笑顔を自分の顔に張り付けた。 「そうでしょうか? 私には、分不相応なお話かと思うのですが……」 「美子ちゃんのそういう謙虚な所も、私は好きよ?」 「ありがとうございます」 (これはもう、今ここで何を言っても無駄だわ)  にこにこと笑顔を振り撒く照江に、美子はこの場で適当に誤魔化したり宥めたりするのを諦めた。するとここで、照江が幾分神妙に言い出す。 「さすがに今すぐに結婚してくれとは言わないし、喪中にも係わらず正式に縁談を持ち込む様な真似をしたら、あの非常識な人と同列視されるから控えるけど」 「勿論、あの人達と叔母さんを、一括りにしたりはしません。安心して下さい」 「ありがとう、美子ちゃん。……それで、これまで従兄弟としか思っていない相手との結婚話をいきなり持ち込まれても、美子ちゃんも戸惑うだろうし、ここは一度当事者同士で会って、それについての話をして貰えないかしら?」 「はぁ、それは……」  流石に結婚についての即答は避けられて安堵したものの、この話自体をどう回避すべきかと悩んで言葉を濁した美子に、照江が急に心配そうな顔付きになって言い出した。
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