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「勿論、今現在他からの縁談があるとか、お付き合いしている人がいるとかなら、断ってくれて構わないのよ? 嫌だ、私ったら。こういう事は真っ先に、お義兄さんや本人に確認しないといけないのに。一人で先走ってしまって、ごめんなさいね?」
根は悪い人間ではないと分かっている照江に、心底申し訳なさそうに謝罪され、美子は(確かに先走り過ぎではあるわよね)と思わず苦笑しながら宥めた。
「いいえ。別に問題はありませんから」
すると瞬時に、照江が嬉々として確認を入れてくる。
「じゃあ今のところ、美子ちゃんには特に決まった相手とか、お付き合いしている人とかは居ないのよね?」
「それは……」
再び口ごもり、反射的に脳裏に秀明の顔を思い浮かべた美子だったが、自分自身に弁解する様に、その事実を打ち消した。
(別に結婚相手が決まってるわけじゃ……。だって付き合ってるわけじゃないし、勿論正式に婚約とかしてるわけじゃないし、あいつから求婚されたのも面白半分だろうし。取引とか交換条件とかでしか、一緒に出歩いてもいないし……。確かに指輪は渡されたけど、しっかり返してしまっているし)
そして若干の後ろめたさを覚えながら、自信無さげに叔母に告げる。
「そう、なるんじゃないでしょうか?」
その途端、照江は両手を打ち合わせて、満面の笑みで申し出た。
「良かった! じゃあ今度、俊典と一緒に食事でもしてくれない?」
「ええと……、お食事ですか? 構いませんよ? 私も久しぶりに、俊典君の顔を見たいですし」
「分かったわ! 早速あの子に言っておくから。俊典の事、宜しくね! 頼りにしてるわ、美子ちゃん!!」
「はぁ……」
照江の迫力に押され、身を乗り出してきた彼女に掴まれた両手をぶんぶん上下に振られるままになりながら、美子は完全に諦めの境地に至った。すると照江が急に時計で時間を確認して、慌てた様子で立ち上がる。
「本当に良かった! 今年は春から縁起が良いわ!! あ、じゃあそろそろ迎えが来る時間だから、お邪魔様でした!」
「いえ、大したお構いも致しませんで」
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