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慌ただしく辞去する照江を見送る為に一緒に玄関から出ると、丁度門の所に倉田家の専属運転手が運転する車が停車した所であり、それに笑顔で乗り込んだ照江のスケジュール管理能力の一端を目の当たりにした美子は、(さすが照江叔母さん。政治家の妻の鏡だわ)と心底感心しながら、走り去る車を見送った。
その日の夜。珍しく早く帰って来た昌典を交えて、家族揃って夕飯を食べ始めて早々に、昌典が美子に声をかけた。
「そう言えば美子。お前近々、俊典君と食事をしに行くそうだな」
「え、ええ。そうだけど……。どうしてそれを?」
軽く動揺しながら問い返した美子に、昌典が困惑気味に説明する。
「夕方、照江さんが上機嫌で俺の携帯電話に連絡してきた。『今後とも親族として、これまで以上に宜しくお付き合い下さい』との事だ」
「そう……」
(叔母さん。浮かれ過ぎです)
彼女の中では既に結婚までのスケジュールが組み立てられているのかもと、美子は些かうんざりしながら考えていると、その会話の意味が全く分からなかった美野と美幸が、怪訝な顔で問いを発した。
「え? 俊典さんが家に来るわけじゃなくて?」
「どうして美子姉さんと、二人で食事に行くの?」
「…………」
下二人とは対照的に、父と姉の会話でおおよその事情を察した美恵と美実は無言で顔を見合わせたが、昌典が顔を顰めながら美子に確認を入れた。
「美子」
「何?」
「はっきり他の人間に対して公表している訳でも無いし、俺としては照江さんと言えども余計な事は言えなかったから、取り敢えず頷いてはおいたがな。どうしてそうなった?」
「……なんとなく?」
父が暗に「あの男の事はどうするんだ」と尋ねているのは分かっていた美子だったが、正直あまり考えたく無かった為、投げやりに答えた。その態度を見た昌典は、盛大に溜め息を吐いて匙を投げる。
「もういい。俺はもう、何も言わん。自分で何とかしろ」
「そうするわ」
呆れられたのは分かったものの、下手に弁解する必要性も感じなかった美子は、そのまま食事を再開し、微妙な空気のまま皆で夕食を食べ終えた。
そして夕食が終わるやいなや、美恵の部屋でその部屋の主と美実が、当惑した顔を見合わせていた。
「ねえ、どうする?」
声を潜めて美実が尋ねると、美恵が苛立たしげに応じる。
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