第9章 予想外の話

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 いきなりかかって来た電話に、後輩の一人である篠田光が不思議そうに問い返すと、秀明は彼を唆す様に話しかけた。 「またちょっと、ネタになりそうな奴が居てな。ちょっと調べてみる気はないか?」  そう持ちかけると、予想に違わず嬉々とした声が返ってくる。 「先輩の勘働きの恩恵に与れるのなら、幾らでも調べますよ。これまでだって、散々儲けさせて貰いましたからね」 「じゃあ、今回調べて欲しいのは倉田俊典だ。父親の倉田和典代議士の長男で、私設秘書を務めている筈だ」  しかしそれを聞いた光は、途端に当惑した声を上げた。 「はぁ? そんな典型的な二世議員を目指しているボンボンなんか調べて、埃なんか出てくるんですか?」 「二世じゃなくて三世だな。彼の祖父が倉田公典だ」 「父親も祖父も揃って与党保守派の、一見身綺麗な前職現職じゃないですか……」  忽ち面白く無さそうな声になって黙り込んだ相手に、秀明は宥める様に言い聞かせる。 「大した事が分からずに無駄骨に終わったら、かかった経費に関しては俺が倍額支払う」  秀明にしては珍しいそんな殊勝な物言いを聞いて、光は機嫌を直したらしく、明るい口調で快諾した。 「分かりました。今回も、先輩の話に乗ってみましょう。もし空振りに終わったら、先輩の連勝記録にストップがかかるだけの話ですからね」 「そう言う事だ。ちょっと急いで調べてみてくれ」 「分かりました。やってみましょう」  力強く請け負った光の言葉に満足しつつ、秀明は幾つかの世間話などをしてから、通話を終わらせた。 「無駄足に終わりそうで、悪いな」  そして(どうせ大したネタは上がらないだろうから、経費は最初から倍額を準備しておこう)と高を括って、秀明は一人密かに苦笑していたが、この事が後にとんでもない事態を引き起こす事となった。
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