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正月気分もそろそろ抜けようかと言う時期の、月曜日の午後。自宅の固定電話にかかってきた電話に出た美子は、かなり当惑する事になった。
「美子、ちょっと頼まれて欲しいんだが」
「何? お父さん。忘れ物か何か?」
「江原君だが、今日休んでいるんだ。会議に出て来ないから部署に尋ねたら、土曜日から風邪をひいて、こじらせて寝込んでいるらしい」
「あら……」
(細菌だろうがウイルスだろうが、弾き返すか捻り潰すイメージしかないんだけど、意外ね)
咄嗟に言葉が出なかった美子が黙って話を聞いていると、昌典は予想外の事を言い出した。
「彼は一人暮らしの筈だし、面倒を見てくれる家族もいないだろうから、食べる物を持ってちょっと様子を見に行ってくれないか?」
その依頼に、美子は幾分皮肉っぽく言い返す。
「一社員の事を、随分気にかけるのね?」
「彼の事は、深美も随分気に入っていたからな。少し位世話をしても良いだろう」
全く動じることなく言ってきた昌典に、美子は小さく溜め息を吐いて応じる。
「分かったわ。早めに夕飯の支度を済ませてから、夕方彼の様子を見に行って来るから」
「頼んだぞ」
それほど抵抗なく請け負ったものの、現実的な問題で美子は一人考え込んだ。
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