第10章 面倒くさい男

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(土曜日からとなると、丸二日? まだ熱が下がっていないのかしら? 回復期だったら良いけど、困ったわね。今の体調が分からないと、どんな物を持っていけば迷うわ……)  仕事で忙しい筈の父に電話をかけて尋ねるのも、かけても詳細までは知らないだろうと思って躊躇われ、美子は直接秀明にメールしてみた。しかし数分待っても返信が無かった為、情報収集を諦める。 「応答なし、か……。熟睡してるなら電話をかけて起こすのは悪いし、取り敢えず適当に見繕って行ってみましょう」  そして美子は手早く必要な物を買い揃え、夕飯の支度も済ませてから、帰宅した美野や美幸に後の事を頼んで、必要な物を持って秀明のマンションへ出かけた。  住所だけは把握していたそこに、迷わずに到着した美子は、入口を通ってエレベーターに向かい、目的階まで上がった。そして廊下に足を踏み出した美子は、進行方向を見て軽く首を傾げる。 「……あら?」  その視線の先には、美子が目指すドアの前で「ちょっと、秀明! 居ないの?」と声を張り上げつつ、玄関ドアを叩いたり、インターフォンのボタンを押し続けている女性の姿があった。それに色々思うところがあったものの、美子は何食わぬ顔で足を進める。 「……誰? あなた」  さすがに至近距離まで来た相手に気が付いたらしく、その目鼻立ちの整った女性が不審そうに尋ねてきた為、美子は淡々と答えた。 「こちらの住人を訪ねて来たんですが、あなたはお知り合いですか?」 「ええ、恋人だけど。あなたは? 単なる知り合い?」
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