第10章 面倒くさい男

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 堂々と宣言し、更に美子を上から下までジロジロと眺め回した挙句、優越感に満ちた眼差しを向けて来た相手に、美子は溜め息を吐いて言い返した。 「そうですね。ですが合鍵の一つも貰っていない、自称『恋人』さんよりは、よほど上手く人を使えると思います」 「何ですって?」 「取り敢えず邪魔なので、そこをどいて下さい」 「ちょっと! 何するのよ!?」  途端に相手は目つきを険しくしたが、美子は彼女を押しのけてドアの横に設置してあるインターフォンの前に立った。そしてドアの前でムッとしている彼女には構わず、バッグから携帯電話を取り出す。 (さてと。もの凄く馬鹿馬鹿しいけど。これで起きなかったら、この場で登録情報を抹消してやるわ)  表面上とは裏腹に、かなり腹を立てながら美子が秀明に電話をかけると、暫く待たされたものの不機嫌そうな声が返ってきた。 「……何だ?」  それに美子が、面白がる様な口調で応じる。 「あら、ごめんなさい。ひょっとして寝ていた? ここで一つクイズです」 「ふざけるな。切るぞ」 「今私は、どこのお宅の玄関前に居るでしょうか?」  そう言い終るや否や、美子はインターフォンの呼び出しボタンを押すと、その場に「ピンポ~ン」と言う軽やかな電子音が響いた。そして若干のタイムロスを生じさせながら、電話越しに同じ音が聞こえてくる。 「答えが分かったら、直接答えて」  短く答えて問答無用で通話を終わらせた美子が、携帯電話をバッグにしまい込む。それから無言で待っていると、すぐにドアの向こうで焦った様に開錠する音が聞こえたのと同時に、もの凄い勢いでドアが開いた。そしてその前で待っていた女性にまともに激突し、当然の結果として、彼女が無様に廊下に転がる。 「きゃあっ! 痛っ!!」 「邪魔だ、五月蠅い。そんな所で何をやっている?」  彼女の身体が邪魔でドアが全開にならなかった事で、パジャマ姿で出て来た秀明はドアの裏側を覗き見て不機嫌そうに顔を顰めたが、彼女は憤然として立ち上がりながら、まくし立てた。 「何を、って! 秀明が昨日のデートをすっぽかしたから、心配して昨日から何度も電話をかけたけど繋がらなくて。やっと朝に電話が繋がって寝込んでるって聞いたから、仕事帰りに様子を見に来て」 「用は無い。失せろ」
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