第10章 面倒くさい男

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(そうすると……、この人、本気で私との結婚を考えてるの? でも最近はそんな事、全然言われて無いし、第一さっきの様な人だって居るじゃないの)  釈然としないまま美子が色々考え込んでいると、秀明がその瞳に剣呑な色を浮かべながら、忌々しげに宣言した。 「止めた。馬鹿馬鹿しい。誰がくそ真面目に、言う事を聞くかってんだ。送り込んだのはそっちなんだから、味見ぐらいさせて貰うぞ」 「ちょっと! 何する気よ!?」  何やら勝手に割り切ったらしい秀明は、美子の手首を掴んだまま床に両肘までを付けて、一気に距離を詰めて来た。美子は思わず顔色を変えて非難の声を上げたが、秀明は如何にもふてぶてしい顔で言ってのける。 「要するに婚前交渉禁止と言っても、最後までやらなきゃセーフだろ」  秀明が当然の如く主張してきた内容に、美子は呆れるのを取り越して本気で怒った。 「勝手に決めないでよ!! しかも何馬鹿な事を、真顔で言ってるわけ!?」  そして素早く右足を折り曲げ、膝から下で秀明の身体を上に押し戻しつつ、左足で彼の太腿や膝裏をドカドカ叩いて抵抗し始める。 「おい、この足を退けろ、邪魔だ。それに蹴るな。本当にお前は、足癖が悪いな」 「女癖が悪いあんたにだけは、言われる筋合いは無いわっ!!」  そう美子が叫ぶとほぼ同時に、玄関の方から鍵を開ける音が聞こえて来た。 「え?」 「何?」  そしてそのままの体勢で二人が固まっている間に、ビニール袋片手に大声で寝室に向かって呼ばわりながら、上がり込んだ淳が姿を見せる。 「お~い秀明~? まさかくたばって無いよな~? 食いもん持って来たぜ? 熱はちゃんと下がって……」  寝室に向かう途中で、開けっ放しになっていたキッチンのドアから何気なく中を見やった淳は、その中の光景を見た途端固まった。そして淳と目が合った瞬間、二人は同時にそれぞれの主張を繰り出す。 「淳、邪魔だ。とっとと失せろ」 「ここで見て見ぬふりなんかしたら、未来永劫、我が家に出入り禁止よっ!!」  そして、双方の意見を耳にした淳の判断は早かった。 「ぐはぁっ!」
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