第11章 面倒くさい女

2/9
前へ
/142ページ
次へ
「お前と言う奴は! 何でいきなり美子さんを、台所で押し倒してんだよ!?」 「……やりたくなったから」  視線を逸らしながら、如何にも面白く無さそうにぼそりと告げられた内容に、淳は相手の髪の毛を掻き毟りたくなった。 「お前……。本当に熱で脳細胞の半分がやられてるぞ! 幾ら彼女に本気で相手にして貰えない上に、他の男が纏わり付きそうだからって、拗ねるな! 怒るな! 切れるな! もう本気でダチを止めるぞ!?」 「…………」  ブスッとしたまま黙り込んだ友人を見て、常にはないその態度に、淳は本気で頭を抱えた。 (全く。俺がこのタイミングで顔を出さなかったら、どうなってたんだ? 怖過ぎて想像できん。最悪、美実に殺されてたぞ。本当に勘弁してくれ)  そして最悪の事態を想像して、淳は心底肝を冷やしていると、軽いノックの後、ドアを開けて美子が姿を現した。 「あら、ちゃんと大人しく寝てたのね。食べられるかどうか分からないけど、口に入れてみてくれる?」 「ほら、秀明」  彼女が何やらトレーに乗せて持って来たのを見た淳は、秀明を促して上半身を起こさせた。そして食べ難いかと考えて、九十度身体をずらしてベッド脇に座って床に足を下ろさせる。そしてその膝の上に持参したトレーを乗せた美子は、深皿に入れてある黄色い物体について、簡単に説明した。 「はい、すっぽんスープの卵雑炊。一応塩と生姜で味は付けてあるけど、足りなかったら小皿の塩や薬味を足してね。今、明日の朝の分を下拵えしながら、果物を用意してくるから」 「お願いします」  横に添えてある小皿の説明を済ませると淳が頷いたのを見て、美子はすぐにキッチンに戻って行った。そしてその間無言で深皿を見下ろしていた秀明が、ボソボソと恨みがましい口調で呟く。 「すっぽん……、絶対嫌がらせだ……」 「何ぶつぶつ言ってんだよ。ほら、さっさと食え」  半ば叱り付ける様にして淳がスプーンを握らせると、秀明はそれ以上ごねる事は無く、大人しく食べ始めた。そして黙々と食べているうちに、美子が同じ様な深皿を手にして寝室に戻って来る。 「ちゃんと食べられるわね。じゃあ食後にこれね」  殆ど食べ終えた状態の皿を見下ろして、美子が満足そうに言いつつ手元の皿を秀明に見せると、彼は若干当惑した様に美子を見上げた。 「桃缶? どうして?」  その問いに、美子は軽く片眉を上げながら、不審そうに問い返す。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

243人が本棚に入れています
本棚に追加