第11章 面倒くさい女

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 再び当事者の代わりに土下座して詫びを入れた淳に盛大に舌打ちしてから、美子は秀明のふてぶてしい顔にフォークを突き立てたい気持ちを懸命に堪えつつ、大人しく桃を食べさせてやった。  それからシンクも綺麗に片付けてから、美子は大人しく寝ていた秀明の元にやって来て、明朝の食事についての説明をした。 「じゃあ明日の朝用に、具沢山の煮込みうどんの汁を作っておいたから、朝に軽く沸騰させてから冷蔵庫に入れてあるうどんを入れて、弱火で数分煮込んでから食べて頂戴。思った以上に元気そうだから、帰らせて貰うわ」  それに秀明は素直に頷いて、傍らの友人を見上げる。 「分かった。助かった。淳?」 「ああ、美子さんは俺が責任を持って、きちんと家まで送り届けるから。お前はちゃんと寝てろよ? 鍵は今度返す」  そう言い聞かせて、淳は美子と連れ立ってマンションを出た。そして淳が玄関のドアを施錠して歩き出したのを見て、美子はエレベーターの前で尋ねてみた。 「さっきの彼女は持って無かったみたいだけど、小早川さんはここの合鍵を持っているんですね」  それを聞いた淳は、丁度やって来たエレベーターに乗り込みながら、不思議そうな顔で尋ね返す。 「普段は持っていませんが、土曜日に電話で様子を聞いて無理やり医者に連れて行った時に、室内であいつが意識不明になってたら拙いと思って、帰る時に借りておいたんです。あの……、『さっきの彼女』って何の事ですか?」  激しく嫌な予感を覚えた淳だったが、不幸な事にその予感は的中した。 「来た時に、玄関前で女性に出くわしたのよ。日曜にデートをすっぽかされて、仕事帰りに様子を見に来たんですって。なかなか見栄えのする美人だったわ」 「そうですか……」 (何て間の悪い。確かにあいつが、未だに何人かの女と切れていないのは知ってるが)  美子が小さく肩を竦めて、淡々と告げたまさかの鉢合わせ話に、淳は全身から冷や汗を流した。そんな淳の心中を知ってか知らずか、美子はマンションの一階に足を踏み出しながら、他人事の様に話を続ける。 「人の事を、上から下までじろじろ眺めて鼻で笑ってたけど、あの人が出て来た時に勢い良く開けたドアで全身を強打されて転がった挙げ句、『失せろ』とか言われてたわ。とんだ鬼畜っぷりよねぇ、いっそ感心しちゃうわ」 「口の悪い奴ですみません」 「あら、小早川さんが謝る筋合いでは無いでしょう?」
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