第11章 面倒くさい女

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「それで、今日“あれ”から聞いたんだけど……」 「何を、でしょうか?」 (秀明……。お前とうとう“あれ”呼ばわりだぞ。どこまで株を下げてやがるんだ。もうろくでもない話の予感しかしない)  何やら思わせぶりに黙り込んだ美子に、淳は戦々恐々としながら話の続きを促してみると、美子は淡々とある事について言い出した。 「“あれ”が家に出向いて、私の父に改めて交際を申し込んだ時、『遊びなら殺すし、本当に結婚する気なら婚前交渉禁止だ』と言われたそうなの」 「はいぃ!?」  ぎょっとして思わず助手席に顔を向けてから、慌てて前方に向き直った淳を見て、美子は静かに問いかけた。 「あなたがこれまで家に来た時、父からそんな事を言われた覚えは?」 「いえ、全く」 「それなら良かったわね、父に殺される心配が無くて。美実にとっくに手を出しているのは知ってるわ」 「はぁ、どうも……、恐縮です」  容赦のない指摘に淳は身の置き所が無くなったが、次の美子の台詞を聞いて、本気でハンドルに頭を打ちつけたくなった。  「それを不愉快そうに喋った後、『最後までやらなきゃセーフだから、ちょっと味見させろ』って、言いやがったのよ。あのろくでなしは」 (全っ然フォローできねぇぞ、秀明!)  本当にろくでもない話に、完治したら絶対一発はぶん殴ると固く決意した淳だったが、次の美子の台詞で思わず笑いを誘われた。 「それで思わず足で抵抗して、あの状態だったってわけ。取り敢えず助かったわ。ありがとう」 「いえ、どういたしまして。しかしそこで『思わず足で』って台詞が出てくるのが、美子さんらしいですね」  口元を緩めて感想を述べた淳だったが、その和やかな空気は長くは続かなかった。 「そういう場合って、普通は大人しく味見されるものなのかしら?」 「……え?」 (という事は、美子さん的には、手を出されても構わなかったって事なのか? いや、それにしては……)  独り言の様に口にされた言葉に、淳は一瞬聞き間違いかと思ってから、慌てて横目で美子の様子を窺った。そして一見いつも通りに見える美子の真意を探ろうとしたが、急に彼女は不機嫌そうに顔を背けて面白く無さそうに告げる。 「……悪かったわね。男性経験が皆無の、面倒臭い女で」  そのまま窓の外に視線を向けて微動だにしない彼女を見て、予想外に怒らせてしまったかと淳は焦って声を上げた。
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