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佐古
「飲み物買うけど、お前も何か欲しい物とかあったら買ってやるから好きに選びな。」
椿
「ダイアモンドのネックレス。」
佐古
「……何で俺が貢がなきゃなんねーんだよ彼女でもねぇ奴によ、アホか。」
佐古がドアを開けて車の外に出ようとした時、椿がハッとしたようにこう言った。
椿
「あ、やめた方がいい。」
佐古
「……は?」
椿
「ここのコンビニ、よくウチの生徒居るから。」
佐古
「だから何?」
椿
「……ヤバくないの?」
佐古
「関係ねぇだろ、別にやましい事してる訳じゃねぇんだから。」
佐古はぶっきらぼうにそう言うと、先にコンビニの中へと入って行ってしまった。呆気にとられながらパタンと車の扉を閉めてそんな担任の背中を眺める椿は、どこか心強い気持ちになっている自分を不思議に思う。
・・・この人のこういう雑なところ、嫌いじゃないんだよな。
小走りで彼を追いかけて店内に入った椿は、先に飲み物を選んでいる佐古の背中からこんな質問をした。
椿
「……じゃあもし私が彼女だったら?」
その言葉を聞いた佐古の手が一瞬止まった。「……?」そんな彼の反応に少しだけ戸惑う椿。もちろんそんな深い意味で言った訳ではないし、ただのふざけたありふれた質問だ。佐古は思い出したかのようにいつも買うお茶を掴むとこんな風にあしらった。
佐古
「そうだな、喧嘩ばっかりしてんだろうな。」
佐古は椿の方を振り返らずにそう返答すると、飲料水のドアを閉めた。パタン……。とドアが閉まるその音は、佐古が椿の心のドアを閉めたようにも聞こえた。「俺とお前とでは合わないよ。」まるでそう言われているようで椿の胸がきつくなる。相変わらず佐古の背後につっ立ったまま、椿はこう呟いた。
椿
「意外と気……合ったりして。」
佐古
「はは、無い、無い。」
・・・何で少しショックなんだろ。てか、何でそんな事気になるんだろう?
椿
「じゃあどんな人がタイプなの?」
佐古はそんな簡単な椿からの質問に、すぐに答えることができなかった。まるで遠い昔の記憶を思い出しているかの様なその横顔は、椿の目にはとても悲しく映った。
佐古
「……ボンっ、キュっ、ボンな女。」
椿
「……うわ、しょーもな。」
佐古
「じゃあお前は?」
佐古は自分が持つカゴにブラックコーヒーを入れ、この時やっと椿の顔を見てそう聞き返した。
椿
「え……健康的な人……かな?」
佐古
「ぷっ、お婆ちゃんがそんな事言ってたっけな確か。」
椿
「おば……(怒)」
ミルクティーを掴んだ椿の手から佐古がそれを取り上げ、カゴに入れた。ムッとした顔でカゴの中からミルクティーを取り出そうと、椿が手を伸ばす。
椿
「いいよ、婆さんは自分で払います。」
クスクスと笑いながら、佐古はひょいと椿の手をよけた。
佐古
「……気にしてたんかい(笑)いいからほら、他にも欲しい物入れろ、ダイアモンド以外でな。」
椿
「ない。」
佐古
「じゃあ先に車戻ってろ。」
椿
「うん。」
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