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2016・6・1
《君を愛していたのに》奴は、そう遺書を残して死んだ。私は、いつも喪服を着ている。
それは、奴への償いの為なのだが。当然の如く、周囲の人間は私の服装に眉をひそめる。
『あの人、おかしいよね?』
『あーゆーのが今の流行りなのかね?』
喪服が流行ファッション?それも面白いかもね。 パンタロン(太陽にほえろ!で、マカロニ刑事が着ていた。)にルーズソックス、シースルー、トレンカ、顔黒…大人は皆、批判するけどさ?髪を長くするのだって、批判されたんでしょ?
昔、祖父に意見したら『生意気だ』と叱られた。
財務捜査官の網代に睨みつけられた。
「宇佐美さん、その格好は何とかならんのかね?」
「不味いですか?」
「みんな、気味が悪いって噂してるよ?」
気味が悪い?君が悪い?奴の亡霊が見えた気がした。「分かりました。明日から気をつけます」
禿げ頭、うるさいんだよ!心の内で毒づき、東武警察署を出る。ナナハンに跨がり、エンジンを唸らせる。
私は一時期、和歌山県警の黒豹部隊にいた。ペイント弾やカメラが搭載されている。今使っているのは、そいつを改造したものだ。
鉄砲隊で、有名な雑賀一族のいた和歌山は射撃の名手がたくさんいた。
black?上等だ!ホワイト族には絶対になるものか。豚瀬や、桝柿よりはマシだ。
豚瀬はかつて東武警察署の署長をしていたが、横領をして屋上で拳銃自殺した。迷惑な奴だった。
桝柿は刑事課長だ。豚瀬の腰巾着で、網代同様に頭のピカピカした自棄に明るい奴だ。
宇都宮の外れにある東武市は、コンクリートジャングルがひしめき合い、夜はjazzが流れる危険な薫りがする街だ。
桑原工業団地にやってきたときだ、ヘルメットに内蔵された無線がピーピー鳴った。
「こちら、宇佐美」
《今、通報があってな?》
桝柿のダミ声が聞こえた。
「どうしました?」
《人の話を遮るな!》ムカつく奴だ。路肩にナナハンを停めた。《今、桑原団地にいるな?》
「はい、いますよ」
《鳴神工業って廃ビルがあるのだが…》
喪服のポケットからPホンを出した。スマホタイプの無線だ。写メールやGPSなどの機能が搭載され、5人同時の通話が出来る。
mapを開き、指でスライドさせる。
「現地点から南東にありますね」
《不審者が目撃された。すぐに急行してくれ》
すぐに急行!?
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