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熱と氷
鳴神工業は元々は印刷会社だったようで、輪転機がそのまま残されていた。埃が積もっていて、思わず噎せた。
ヘルメット内部のモニターにdangerと表示された。アラート音がビービー鳴り響く。
熱線写真サーモグラフィーが感知したようだ。
「工場内の温度が急激に上昇しています」
無線で桝柿に伝える。
《すぐにそこから離れるんだ!!》ではなく、《原因は?》という、氷結した桝柿の声が返ってきた。
氷結果汁、桝柿…なんて、商品があったら絶対に買わない。もれなく、湯河原温泉プレゼント!
他の部分は緑や黄色だが、ドラム缶が真っ赤になっている。メタルギアのサーマルゴーグルを思い出した。
「ドラム缶が摂氏126度に上昇」
私はリュックから冷却ガンを取り出した。トリガーを弾く。プシューッとエアーの音がし、粒子がドラム缶を包み込み、やがてカチコチに凍りついた。
ファイバースコープを注ぎ口に垂らす、モニターに映ったのはプラスチック爆弾RDXだ。
《国連国際民間航空機関により、探知剤を普及させる条約が出来たが…どうやってすり抜けたんだ?》
桝柿は東大法学部卒業だ。知識がいろいろある。
高校中退の私とは、何もかもが違いすぎる。
《確か、1998年に発効されたのだが?》
能書きばっかり垂れやがって、少しは部下の心配しろよ。
『桝柿ィ、能書きはいいんだよ』と、脳内で中尾彬がマフラーを締める。
同じ頃、羽山美冬はPARCO宇都宮店近くにある豪邸にやってきた。
屋敷の主は、姉の夏海だ。彼女のせいで美冬の人生は狂った。
書斎に入る。マホガニーの机を怨めしく見る。高級そうだな?書棚にはぎっしり本が詰まっている。
ほとんどがミステリー小説だ。
赤川次郎の《セーラーと機関銃》からはじまり、鮎川哲也、有栖川有栖と名だたる推理作家の本が並ぶ、最後は和田竜で終わっている。《のぼうの城》や、《小太郎の左腕》で有名だ。
その中に金田一龍彦って、見慣れない名前があった。「ノックスの十戒?エロそうなタイトルね?」
最後列の《や~わ》の棚をよく見ると、滑車がついている。レバーを解除し、棚に手を掛けるとレールを滑り、棚が扉の様に開いた!
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