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栃木と茨城
同じ頃、茨城県大洗港で麻薬売人・張の惨殺死体が発見された。張は普段はピラニアってボールペン工場に派遣されていた。
ピラニアは桑原工業団地にあり、東武署は派遣社員の大量失踪事件を追っていた。
「いやぁ、運転ご苦労さまです」
東武署の中堅刑事、富田は助手席から降りた。
茨城県警の鉾田警部補がジロリと、ゴリラみたいに屈強な富田を見た。
車から降りて、鉾田は大きく伸びをした。
潮風に乗り、海苔の匂いが漂ってくる。
「あんまり土地勘がないですからねぇ」
「私はアッシーではありませんよ?」
うるさいジイさんだな?定年間近らしいが、イライラするのは認知症の初期症状なのでは?
「分かりましたよ、帰りは運転しますよ」
「迷われたら困るから結構ですよ、ケッ」
何なんだよ?これじゃあU字工事じゃないか。
「いやあ、綺麗な海ですなぁ」
「そうですか?私ら年中見ていますからね、栃木には海がないそうですな?おかわいそうに」
ますますイラつくな。
鉾田と富田のギザギザコンビは、ラテックスを手に嵌め、ゲソ痕を消さないために革靴の上にも防護服をして、毛髪が落ちないように白い帽子を被り、さらにマスクをした。
外見からは医者の様に見えるかも知れない。
立入禁止のロープを潜る。心臓がドキドキしてくる。
「ご苦労様です」
先に着いていた捜査員たちが敬礼した。
ブルーシートを鑑識係が剥がした。
富田の胃袋が鳴動した。今朝、食べた卵焼きが込み上げそうになった。
顔面は焼け爛れ、右の眼球がくり貫かれていた。
浅草の花屋敷にいるような怪物みたかった。
死体の左手の中指が異様に長かった。
「張に間違いありません」
富田が言った。
「直接の死因は脛椎骨折ですな。殺してから顔を焼いて、さらに目ン玉を抉ったようです」
鑑識係はどことなく所ジョージに似ていた。
「遺体を早くご遺族に届けてやりたいな」
富田がそう言うと、鉾田がニタニタ笑った。
「こんなクズに家族なんているのかねぇ?」
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