第1章 聖騎士の義務 

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「そうそう丸め込まれる心配は無さそうだって? 兄としては、別な心配もして欲しいものね。私達は暫く、手出しできない所に居るし」 「大丈夫だ。本当の意味で、我が家で一番強いのは藍里だ。それは俺達を産んだ母さんが、一番分かっている事だろう?」 「…………」  落ち着き払った表情と声音で語られた内容に、万里は無言で小さく首を振った。それに苦笑しながら、いがみ合っている二人に構わず、界琉が腰を上げる。 「詳細はジーク達から聞いてくれ。本国からの指令を受けて、そろそろ来る頃だろう」 「ちょっと界琉」  それに藍里が何か言い掛けた時、玄関のドアチャイムが鳴り響いて、来客を知らせてきた。 「ああ、ちょうど来たな。じゃあ俺はアルデインに戻る。二十分後に午後一番で会議があるんだ」 「本当に非常識な台詞よね。本来日本とアルデインって、飛行機を乗り継いで二十時間の距離なのよ?」  さらりと界琉が口にした内容に藍里も呆れ気味の口調で立ち上がり、兄を見送りながらやって来た人物を出迎える為に、一緒に玄関へと向かった。そして靴を履いた界琉が玄関のドアを開けると、外に立っている人物と真正面から顔を合わせる事になった。 「お邪魔しま」 「やあ、ジーク。久しぶり。俺は今から帰るから、遠慮しないで話をしてくれて構わないぞ?」 「別に、遠慮という事は」  一時期、来住家で一緒に暮らしていたという割には、相変わらず微妙な空気を漂わせている二人を見て、藍里は(そういえば、未だにこの変な感じの理由を吐かせて無かったわね)と思い至り、無言で眉根を寄せた。 「じゃあな、藍里。式の時に会おう」  どこまでも気ままで、相手の事を考えない様に見える兄を、藍里は手を振って追い払う素振りをしながら言葉を返す。 「それまで顔を見たくないわね。最近界瑠が来る時って、ろくな話を持ってこないんだから」 「兄に向かって、何て言い草だ」  そんな藍里の言葉に傷付くどころか、おかしそうに笑いながら、界琉は庭の片隅の物置から、リスベラント日本支社を経由してアルデインへと戻って行った。
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