第4章 不測の事態

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 界琉がヒルシュ子爵当主である伯父と養子縁組みの上、ヒルシュ子爵位を正式に譲り受けた事は、既にリスベラント公宮に届け出て受理されていた。  しかし爵位継承に関する正式な披露は、界琉と現公爵令嬢クラリーサとの挙式披露も兼ねる事にしていた為、央都でのリスベラ大聖堂での二人の挙式後、ヒルシュ子爵邸で夕刻から開催された披露宴は、公爵家とヒルシュ子爵家の縁戚以外の貴族達も興味本位で押しかけ、かなりの盛況となっていた。 「はぁ~、うっざ!」  前当主であるサムエルが、披露宴の開催を告げてから一時間あまり。藍里が早々と周囲の人間には分からない様に悪態を吐くと、グラス片手に隣に立っていた悠理が、結い上げた彼女の頭を拳で軽く叩いた。 「こら、藍里。淑女がなんて言葉遣いだ」 「だって寄って来る連中、金太郎飴の様に殆ど同じ反応をして、殆ど同じ内容を口走るのよ? 何回同じ台詞を口にしたと思ってるのよ」  如何にも飽き飽きしたという口調の藍里の主張に、周りにいた彼女の従兄姉達が、顔を見合わせて苦笑いする。 「確かにそうね」 「暇だったから、人数を数えておいた」 「うわ……。ジェイク、絶対面白がってるわよね?」 「当然」  そして親戚だけの気安さでくだけた口調で雑談をしながら笑い合っていると、彼女の従姉であるシンディが、含み笑いで藍里に告げてきた。 「アイリ、本来なら真っ先に来る筈のお客様よ?」 「本当だ。どうやら公爵家関係者と、呼ばれもしないのに押し掛けていらした麗しの長姉殿下一党のお相手で、今まで離れられなかったらしいな」  従兄に当たるジェイクがチラッと視線を向けて幾分同情気味に推察する中、悠理が無言でグラスを傾ける。そんなヒルシュ家の若手が集まっている所に、ルーカスが単独でやって来て、藍里に声をかけてきた。 「やあ、こんなところで……」
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