第1章 聖騎士の義務 

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「ただいま~」 「ただいま戻りました」  一ヵ月程前に、聖紋持ちである自分にブチブチ文句を付ける一派をリスベラントでぶちかまして帰国し、手を出してくる人間が滅多に来なくなってからも、『本国の意向』とやらで女装して同じ学校に通っているルーカスと、いつも通りいがみ合いながら帰宅した藍里は、玄関に入って挨拶しても無反応だった為、靴を脱いで上がり込みながら怪訝な顔になった。 「お母さん、居ないの?」  奥に向かって軽く呼びかける藍里の横で、ルーカスも軽く顔を顰める。 「今日はマリーは、リスベラントに出向く予定だったか?」 「ううん? そんな事は無かった筈。まだ買い物から帰ってないのかしら?」  グレン辺境伯夫人兼、総内務長官夫人としてリスベラントの貴族社会での付き合いにも顔を出している万里は、夫程ではないにしろ忙しい日々を過ごしていたが、その日この時間に家を空ける予定は耳にしていなかった二人は怪訝な顔を見合わせた。しかしそこで二階から物音が聞こえて来た為、二人は無言のまま慎重に二階に上がって、音がしたと思われる部屋の様子を窺ってみる。 「……お母さん?」  僅かに緊張しながら、静かにドアを開けて室内を覗き込んだ藍里だったが、目に飛び込んで来た光景に、思わず脱力しそうになった。 「あ、お帰りなさい! もう少ししたらご飯の支度を始めるから、ちょっと待っててね!」  それはすこぶる上機嫌に振り返った母がベッド上と言わず床と言わず、衣類や小物の類を広げていた為で、藍里の背後から覗き込んだルーカスも、その惨状に唖然となった。 「それは良いんだけど……。こんな時間にこんなに服を出して、何やってるの? 衣替えは、この前済ませたばかりよね?」  その問いかけに、万里が嬉々として立ち上がり、娘に報告し始める。 「聞いてよ、藍里! 私達、新婚旅行に行く事になったの!」 「はぁ? いきなり何を言いだすのよ?」 「ほら、私、結婚してすぐに界琉を身ごもったから、新婚旅行なんかできなかったのよね。ある程度界琉に手がかからなくなったら、今度はダニエルがリスベラントの仕事で忙しくなっちゃって。満足に纏まった休みが取れないまま、ずるずると今まで来ちゃったのよ」  言われた内容を藍里は思い返し、納得して頷いた。
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