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「え……お、お母さん? な、何、どうしたの。今日は随分と帰りが早いねえ?」
あたしは、さりげな~くおっさんをお母さんから隠そうとした。
けれど、お母さんはズカズカとあたし達の方へと近づいてきた。
完璧にお母さんの目はおっさんをロックオンしている。
あれ、待てよ? そう言えば、お母さんはさっき何て叫んでた?
「お父さん! あなた! 何なのこれは? 一体何がどうなってるの!?」
お父さん? あなた? どゆこと??
あたしの頭の中はハテナマークでいっぱいになった。
おっさんも口を開けてポカンとしている。
「あの~、お母さん? 全っ然話が見えないんだけど。え、このおっさんがお父さんって」
「未理! この人はね、十二年前にいなくなっちゃった、あなたの本当のお父さんなのよ!」
「…………はい?」
『本当のお父さん』――……て、なに。
初めて聞くワードなんですけど。
「本当ってどういうこと? じゃあ、この間まで父親面していたあのDV親父はつまり――」
「今までいたあの人は、ただの内縁の夫! こっちが正真正銘あなたのお父さん!」
その頃にはもう、私のこめかみはピクピクと震えだしていた。
「な……はあ!? 何で今まで黙ってたのー!? あんなサイテー親父でも、本当の父親だと思ってたから我慢してきたのに!」
「ご、ごめんなさい。なかなか言い出せなくて……」
などと、私とお母さんがそんな言い争いをしている時だった。
「もしかして……美登里(みどり)さん?」
ぽつりと呟いたおっさんに私は驚きの目を向けた。
ぽわわんと見る見るうちに紅潮していくおっさんの顔。
え、おっさん?
どうしてお母さんの名前を……あたし、教えてないよね?
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