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薫と春樹は、絶妙な間合いで尾行を続けた。
けれどターゲットである鈴木は、時折連れの男と談笑を交わし、若者向けの雑貨店や衣料品店を覗き見ながら、のんびりと歩いてゆく。
その緩い空気感に、次第に薫の緊張も緩んでしまう。
やっぱり今日はハズレなのだろう。
無駄に鈴木に歩かされるだけだなと予想しながら、薫は横の少年を見た。
その少年の横顔は、涼しい目元のせいか、いつも僅かに憂いを含んでいるように見える。
困った事に、その度に薫は少なからずドキリとしてしまう。
「春樹」
「はい?」
さっきから呼び捨てにしているのだが、気にしていないようなのでそのまま続けてみた。
「なんでそうバカ正直に俺の尾行に付き合う? 自分の用事があるんだろ?」
「……ええ、まあ」
「ごめんな。さっきはあんなふうに言ったが、今日の尾行は浮気調査の予行演習になりそうない。構わないから、買い物に行って来いよ」
「あの。迷惑じゃなければこのまま続けさせてください」
「まさか、このあと本当に俺に買い物に付き合って欲しいわけじゃないよな」
そんなわけないじゃないですか、と笑い飛ばされるのを覚悟で言ってみると、春樹は驚くことに少し照れたように笑った。
「本当です」
――――おいおい、マジかよ。どういうつもりだい?
このくらいの年頃の子が、32歳のオッサンに買い物に付き合ってほしいとか、ありえるのか?
服だってなんだって、趣味が違うだろ?
本当に買い物が目的なのか? それともそのあとの……。
薫は体中の血がザワザワと動きを速めたような気がした。
◇
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