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ハッと、脳裏にひらめくものがあり、薫の胸が小さく跳ねた。
――――なるほど、そういうことか。
ニンマリ笑って顔を上げる。
「美沙ちゃんは美人だし良い子だし、好きだよ。でもそういうつもりで事務所に顔出してる訳じゃない。あくまで同僚としての、コミュニケーションの一環さ。それに、君の居る鴻上支所は、何となく居心地が良くってね。それだけさ。……俺が行くと、迷惑?」
「いえ! そんなこと無いです。……それならいいんです」
春樹は言いながら首を小さく何度も横に振った。
更に色白の頬に紅が差す。
表情を誤魔化すようにキュッと結んだ形の良い唇がひどく愛らしく、そして艶やかだった。
――――大丈夫だぞ春樹。安心しろ。俺はフリーだ! 女なんかいない!
薫は腹の底から訳もなくムクムクと湧いて来るエネルギーを感じた。
“落ち着け、中年男。見苦しいぞ”という心の声も、理性の片隅でちゃんと受け止めてはいたが、頭の中はすっかり花畑だった。
この尾行を一段落付けてからの予定がテロップとなって、薫の脳裏をキラキラと流れてゆく。
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