第1章 喉を潤す茨

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「・・・・・・へ?」  思っていた回答と違ったため、友也は呆気に取られる。  「貴様は俺の正体を知った事に優越感を浸っているのかもしれないが、そもそも、貴様が無事に尾行出来たのは、俺のお陰だと言っても過言ではない。わざわざ尾行させてやったというのに、手土産も何も買わずに他人の家に上がり込むなど、愚の骨頂!そうは思わないかね?」  返事に困っている友也を他所に、男はさらに続けていく。  「人間という生き物は実に不愉快だ!俺たちに比べて、弱くて脆くて低能なくせに、口だけは実に達者になっていく!自然にまで手を出し、自分達で勝手に境界線を決めて行く!この愚行に対して、貴様はどう思う?・・・いや、やはり答えなくていい。どうせ参考にもならない、くだらない答えしか持ち合わせていないのだろう。」  一人でどんどん喋る男に、友也は聞いていない最後の質問をする。  「あれ?名前・・・は?」  流暢に話をしていた男は、ピタリ、と口を閉じて、正面のずっと奥にいる友也を見ると、目を細めて眠たそうな顔になる。  まばたきを数回すると、手を顎に当てて、何かを考え始める。  足を組んで物事を考えているその姿は、というよりも、黙っていれば、男の友也から見ても格好良いと言わざるを得ないのだが、口を開けば飛び交うのは毒舌。  ここまで極端に人格が違うと、逆に清々しささえ感じる。  そんなことを考えていると、男は目を静かに開け、友也に聞いてくる。  「記憶を辿ってみた結果、貴様に名を名乗っていなかったことが分かったが、貴様のような下等な人間に名を言うべきなのだろうか。」  なんとも失礼なことをベラベラと言ってのける男に、友也はテーブルの下で拳を作るが、自分の方が大人だと言い聞かせて、冷静に対処する。  「な、なんと呼べばよろしいのかと思いまして・・・。」  「・・・・・・。俺の名前を教えるということは、同時に、なぜその名を授かったかという説明も含める必要があると考える。となると、時間がかかってしまう。しかし、貴様の脳味噌の動き具合から判断すると、それは時間の無駄になってしまう可能性が高い。よって、名前だけ簡潔に答えた方が良いように思う。」  それならばさっさと言えばいいものを、じれったく引き伸ばしている男にキレそうになった友也だが、肩をポンッと叩かれ、そちらを見る。
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