第1章 喉を潤す茨

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フクロウを肩に乗せた光が、男よりも先に名前を告げる。  「グラドム・シャルル四世だ。」  どうやら、男、シャルルよりも光の方が話が分かるようだ。  未だに一人で何かを言っているシャルルを横目に、友也は肉を食べ始めると、意外と美味しい事に気付く。 ミディアムくらいの焼き加減が好きなのだが、レアでもいける。  人間の価値はどうだとか、自分たちはこういうところがスゴイだとか、自慢話と批判を交互に繰り返しているシャルルの傍では、コウモリが友也を狙う様に見ている。  「そう!人間の価値とは逸れ即ち!そいつの血が上物かどうかだ!そこで決まるんだ!」  それはシャルル限定のような気もするが、話しかけるのも疲れてしまい、友也はテーブルに顔を乗せたまま寝てしまった。  「シャルルの話が長いから、寝ちまったよ。」  「俺のせいではない。こいつの根性不足だ。」  ―翌日  いつものように友也は学校に向かって歩いていたが、頭の中では夢と現実の境目が揺れていて、どこで切ったらよいのか分からない。  髪の毛をガシガシと勢いよくかき乱していると、後ろから声が聞こえてきた。  「石黒君、どうかしましたか?」  髪を乱していた手を止めると、ゆっくり顔だけを振り向かせ、その人物が誰かという確認作業に入る。  ニコニコとした笑みを浮かべ、背筋をまっすぐに伸ばした美少年、都賀崎侑馬だ。  「いや、何でも無い。」  「?そうですか。それは良かった。」  「お、おい、都賀崎・・・・・・?」  「何ですか?」  じっくりと舐めまわす様に侑馬を見てみるが、いつもの侑馬となんら変わりは無く、もっと言えば、昨日出会った吸血鬼とは遠い存在に思えた。  きっと昨日は悪い夢を見たんだと、友也は思う事にした。  「や、おはよう。」  「おはようございます。」  ニッコリと微笑むと侑馬はサッサッと歩きだし、当たり前のように女生徒達が侑馬の傍に群がっていく。  やはり昨日のことは夢だったのだと、少し安心した友也は教室へと歩いていく。  いつものように授業が終わり、いつものようにお昼を食べ、いつものように家路に向かって歩いていると、声をかけられた。  声や口調からして侑馬であることが分かると、「おう」と元気よく返事をする。
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