第1章 喉を潤す茨

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「は?」  「聞こえなかったのか?それとも聞く気が無かったのか?それとも貴様の耳は詰まっているのか?」  一度で聞き取れたものの、内容が頼みごとであったために、友也は自分の耳を疑ってしまったのだが、その反応が逆にシャルルの機嫌を損ねたようだ。  「なんでそんなこと俺に頼む・・・んですか?」  友也の言葉に顔を顰めると、シャルルは鼻で盛大に笑った。  「誰が頼むと言った?これは命令だ。」  「いや、あれ?でも・・・。」  「“黙らせてもらう”とは命令であって“頼み事”では無い。毎日黄色い声を出されては、俺の耳がおかしくなりそうだ。」  どうでもいい、ましてや友也には直接何も関係ない事を命令されたが、段々と脳も身体も慣れてきたのか、シャルルの文句を上手に聞き流せる。  延々と続くのかと思われたが、コウモリが何かに反応するとシャルルもすぐに口を閉じ、気配がこの部屋に来るのを待つ。  バンッ、と勢いよく開いたドアから現れたのは、学校でも会ったはずの光だった。  肩にはフクロウを乗せたまま、友也に軽く手をあげて挨拶をすると、シャルルの方に向かって叫び出した。  「シャルル!大変だ!」  「なんだヴェアル、騒々しい。」  足を組み、頬杖をつきながら偉そうに口を開いたシャルルに、光は何か新聞らしきものを顔面に突きつけた。  それを黙って受け取り、ため息をつきながら読み始め、だいたいの内容を頭に叩きこむと、テーブルの上にバサッ、と置いた。  「俺にどうしろと?」  ふとシャルルが視線を床に落とすと、どこから入ってきたのか、コオロギがじっと床に居座っていたため、シャルルは手で掴んでそのままジキルとハイドに餌として与えた。  耳に残りそうな不気味な音と共に、コオロギは二匹の口から姿を消した。  「ミシェルが今こっちに向かってるって・・・。」  「何だと!?」  光が全部を言い終わる前に、ガタンッ、と勢いよく椅子から立ち上がり、牙を剥き出しにして赤い目で光を睨む。  睨まれている当人は、空気が変わったことに気付きながらも、フクロウに餌を与え始めた。  わなわなと拳を作って怒りを押さえているシャルルのせいか、立ててある蝋燭はガタガタと揺れはじめ、シャンデリアに乗っている埃も落ちてくる。  ゴォォォォォォォォ、と今のシャルルに効果音をつけるならそんな音だろう。
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