第1章 喉を潤す茨

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光に注意されると、友也は慌てて自分の手で自分の口を押させて、侑馬に気付かれていないかを確認する。  電柱から身体半分ほどを出して侑馬を見ると、特に気付いていないらしく、いつものように背筋を伸ばして歩いている。  先程は女生徒に歩調を合わせていたのか、ずっと足早になった侑馬に置いていかれないよう、必死になって友也は後を追うが、サッサッと次々に曲がり角を曲がってしまう。  ついには、軽く走らないと追いつけないほどになってしまった。  「おい、さっきから同じ道を歩きてる気がするの、俺だけか?」  「奇遇だな、石黒。俺も、さっきから通ってるコンビニの店員が同じ顔だと思ってた。」  「そんなとこ見てたのか!?すげぇな!!」  後をついていってるのがバレているのかと思っていたが、侑馬は一度も振り返らずに歩き続けていたため、友也は大丈夫だと自分に言い聞かせた。  二時間ほど、狐につままれたような遊びを繰り返していると、やっと違う道に入って行った。  細い路地裏を通り、野良猫に笑いかけては更に細い道へと入っていき、気付くと街中からずっと遠くなっていた。  侑馬の背中だけに視線を向けて歩いていたため、街から離れていたことさえ分からなかった。  森の入口まで来たが、侑馬は森の奥へと進んでいく。  「・・・・・・行くか?」  「俺は石黒に任せるよ。」  迷っているうちに、侑馬を見失うと瞬時に判断した友也は、すぐに尾行を再開する。  どんどん空は暗くなっていき、森の奥へ行くにつれて不気味な気配を感じるが、今更帰るわけにもいかず、侑馬を追って行く。  「あれ?」  急に侑馬が視界から消え、急いで姿が見えなくなった場所まで行ってみるが、やはりそこに侑馬の姿は無かった。  慌てて森の奥に進んでいくと、目の前に突如現れた黒い影に、思わず息を呑む。  「なんだ?これ・・・・・・。」  随分と古そうな城、それを呑みこむようにしている茨が、なんとも不気味さを際立たせている。  光の腕を強引に掴み、城の中へと入るため、大きな木の扉に近づく。  「い、行くぞ・・・・・・。」  ギィィィ~・・・  重く湿気った木、錆びた金属の共鳴、湿気の籠った扉の奥から漂う臭い、真っ暗で何も見えない視界に、友也は息を潜める。
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