第1章 喉を潤す茨

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組んでいた足を下ろすと、男はバァッ、とマントを広げて天井高くを通り、友也の顔にぶつかるくらいまで近づいてきた。  なんとか顔スレスレほどで止まったが、やはり男の正体は、自分の探していた人物と一緒であると確信することしか出来なかった。  ニヤリ、と口元を歪めた男は、友也に向けて牙を剥き出しにする。  目を真ん丸にさせた友也を見て、男は楽しそうに、いや実に愉快そうに、腹を抱えて笑いだした。  「友也、今の貴様の顔、世界中の人間に見せてやりたかったぞ!ハハハハハ!!!そんなアホ面も出来るとはな。もっと早く気付いてやるべきだったな!」  「え?・・・と、都賀崎・・・?ちょ、え?マジ?え?は?と・・・え?」  隣にいる光が友也の肩をポンッ、と叩き、首を横に振った。 男に食堂まで連れて来られ、長いテーブルの端と端に座る。  所々に蝋燭がポッ、ポッ、と灯っているだけのテーブルは、男の表情を窺うにはあまりにも少なく、自分の顔色を見られないためには十分だった。  レアの肉を出され、男はナイフとフォークを使って優雅に食べ始めたが、今の友也はそんな気分では無い。  隣の光を見ると、素手で掴んで食べていた。  頬を引き攣らせて、また自分に用意された肉を眺めていると、肉を三分の一ほど食べ終えた男が、ナイフとフォークを皿の端に置いた。  「で?何か探し物があったとか・・・?」  ニヤリ、と妖しい笑みを見せつけた男に、友也は何をどう伝えれば良いのか分からず、おどおどし出す。  頬杖をつき、真っ赤な液体を注がれたワインを一口飲むと、くるくる回しながら、友也の回答を待っていた。  刺々しい視線に耐えきれなくなった友也は、さっさと言って、さっさと帰ろうと考えた。  暗がりの部屋の奥にいる男の方を見て、少しだけ睨むような顔ではっきりと、男に対して問いかける。  「あんた・・・都賀崎・・・なのか?あ、なんですか?」  「・・・・・・・・・・・・プッ。」  友也の必死の言葉を聞いて、手で口元を隠し顔も斜め下の方を見ながら、思いっきり吹きだした。  目に涙を浮かべるほどに笑ったらしく、指で涙を拭いながら顔を友也に向けると、男は小さな二つの牙を出して笑いかける。
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