第1章 喉を潤す茨

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「そうだ。都賀崎侑馬だ。本業はこっちだがな。」  「本業って・・・。職業じゃねぇじゃん・・・。」  「何か言ったか。」  「いいえ。」  口調がここまで違ってくるとなると、相当裏表の激しい男だったのだな、と勝手な解釈を始めた友也は、侑馬だと名乗る男の格好を見て、その“本業”を聞いてみることにした。  実際のところ、聞いたら自分は生きて帰れないのでは、と思ったが、開いてしまった口は、そう簡単には止まらなかった。  「吸血鬼、ってことか?ことですか?」  「そうだ。ヴァンパイアだ。問題あるか。」  問題があるなんて言ったらどうなるのだろうか。  恐怖心が徐々に慣れていったところで、光についても聞いてみることにしたが、当の本人は、肩に乗っているフクロウにミミズを与えていた。  バサバサッ、という音が部屋に響いたかと思うと、いつの間にか男の許に二匹のコウモリがいた。  もう何から聞いていけばよいのか分からず、普段使わない脳味噌がフル回転し始めると、あまりのスピードに、文字通り、火花を散らしているようだ。  「幾つか聞きたい事がある。・・・あります。」  「何だ。」  「光のこと・・・ですけど。」  「そいつはヴェアル。狼男だ。そのフクロウは確か、オズリ―・ストラシス。次!」  詳しいことは何も言わずに、本当にちゃっちゃっと答えるだけのようだ。  「あー・・・そのコウモリは?」  「ジキルとハイドだ。可愛いだろう。ちなみに、ジキルは雄でハイドは雌だ。次!」  「なんでわざわざ、ふ、副業?してるん・・・ですか?」  「暇つぶしだ。次!」  マイペースというか、マイペースと言ったらマイペースという言葉に対して失礼なような気がするくらい、自分勝手な男だ。  一回だけでいいから睨みつけたい友也だが、充血したように真っ赤な瞳が、それを許してはくれない。  暗闇の中でも、ボウッ、と浮かび上がる不気味な赤い色は、トラウマになりそうだ。  「これって、学校にバラしたら不味いんですか?」  ふと、自分が男の秘密を握ったことを理解し、勝ち誇ったような笑みを男に向けると、男は友也よりの更に一段階上の笑みを見せる。  「不味くない。」
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