第1章

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ー ぼやけた視界。映るのは見慣れた天井、全身で感じる馴染みのあるベッドの弾力。カーテンの隙間からは光が溢れている。 そうか、私はまたあの夢を……。 ぼうっとしていた頭が徐々に醒める。枕元に置いているスマホに手を伸ばし時間を確認すると、アラームがかかるより少し早くに起きてしまったようだ。時間まで二度寝しようと再び目を瞑ってみるものの、蒸し暑い部屋ではそう簡単には寝付けない。エアコンはタイマーをセットしていたから夜中の内に切れてしまっていた。じんわりと汗ばんでいく背中に不快感を覚え、私は仕方なく起き上がることを決心した。 カーテンを開くと容赦のない朝日が私を包む。朝からエアコンをつけているとお父さんに怒られてしまうので、大人しく窓を開ける。すると、アラーム代わりに蝉のけたましい鳴き声が部屋中に響き、申し訳程度の風が私の髪をさらう。 こうしてまた、昨日と何も変わらない一日が始まる。朝ごはんを食べて、図書館へと出掛けて、友達と受験勉強に勤しむ。夕方頃に帰ったら夜ごはんの手伝いをして、お風呂に入って、くつろいで、また勉強して、そして眠りにつく。 中学校が夏休みに入って、私はこんな当たり障りのない毎日を送っている。平凡な日々に不満を抱いているわけではない。時には中学生らしい、例えば、乙女チックな色恋沙汰を求めていないわけではない。でもそれ以上に受験というものは現実として重くのしかかってくる。残念だけど、横道に逸れている余裕は受験生にはないのだ。 だから少なくとも、平和に勉強ができるこの環境に不満を抱いてはいけない。まぁそれと同時に、そんな簡単に割り切れることだけが現実じゃないということも、中学生になればわかってくるものではあるんだけど。 一度ため息をつく。勉強机に置かれたクローバーのネックレスを付けて、部屋着のまま自室を後にした。
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