表の図書室、裏の図書室

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「あのね……そんな舌舐めずりしながら見られてると、話しにくいわ」 「してません」 頬を両手で挟んでつい、と顔をそらすのはやめてほしい。と思いながらも、自分の唇をなぞっている右手の動きに気付いて、ついでに唇をごしごしと擦ってみた。 文句を言いたげな先輩のわななく口の動きを視線をそらす事で見なかった事にする。すると、唇を拭った事に関してはとりあえず横に置く事にしたらしい先輩が、ひとつため息を吐いた。 かび臭い空気に先輩の吐息が溶けていく。 ホコリっぽい空間にあまいお茶の湯気が揺らぐ。 冷たく湿ったこの部屋で、先輩だけが温度を持っていた。 「だって私たち、付き合ってるのよ」 すみません、話がわかりません。 「夏休みに入って一度も会わないまま、一週間よ?」 不服そうに先輩は身を乗り出し、顔を僕に近づける。その分僕は背中を仰け反らせ、離れる。 何を言っているんだ、この人は。僕なんかが先輩と付き合っているだなんて、噂にでもなってみろ、僕は不登校確定だ。 「落ち着いてください、先輩。とりあえず人間の頸動脈の場所から説明しましょう」 「いらないわ、そんな説明……」
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