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先輩と過ごした時間は、そう長くない。
僕はこの春に入学した新入生だし、この夏休みが高校生活ではじめての長期休暇だ。
入学してすぐ、同級生を手にかけるという失態を隠蔽したのが、この第二図書室の奥。事を終えて逃げ出した僕と廊下の角でぶつかったのが、先輩。
「私ね、はじめは君の事、私と同じ存在だと思ったの」
温くなったお茶で口を潤した先輩が、あまい吐息をゆっくり吐きながら微笑む。僕は、黙って先を待った。
「違ったけどね、でも……君が運命の人だって、すぐにわかったわ」
僕は先輩の"仲間"や"同類"ではない。そもそも先輩のような人が何故普通に生活しているのか。追求すれば、僕の知らない世界が幕をあけるのだろう。
「ね、試しにでいいの」
「なんですか?」
「ちょっと私の事、殺してみてくれない?」
ちょっと消ゴム貸して、くらいの気軽さで、僕に命を奪わせろと言うのか。
できない事はない。鉛筆の芯を折るのと同じくらい、簡単だ。
鉛筆は折れたらまた削ればいい。芯が出てくる。
「目を閉じてください」
僕は椅子から立ち上がった。
じゃあ命は、削ったらまた、出てくるの?
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