表の図書室、裏の図書室

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長いまつげが、ピクピクと震えている。 小さな唇が、やわらかく微笑んでいる。 華奢な肩は、自然なままで撫でている。 短くした事で露になった首元が、白い。 夏服の襟から覗く鎖骨に、そそられる。 でも、どこにナイフを刺したらいいか。 どこから毒針を射し込んだらいいのか。 このまま首を締上げてやればいいのか。 僕には先輩を殺す手立てが思い付かなかった。いや、いくらでも思い付くのに実行できない。それは、僕がもうこんな事をしたくないと思っているからで、足を洗いたいと思っているからで、けして、けして、間違っても……。 僕は、先輩の体に指ひとつ触れる事なく、唇だけを触れさせた。 間違っても、先輩の事を好きだなんて、思っていない。 でも、できない。 僕には、できない。 ……なんで。 頼まれれば、誰だって手にかけてきたのに。 先輩だけが例外じゃないのに。 ナイフは右のポケットに、毒針は左にちゃんとある。 でも、僕は先輩にくちづけをする意外の行動を、取れなかった。
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