6人が本棚に入れています
本棚に追加
長いまつげが、ピクピクと震えている。
小さな唇が、やわらかく微笑んでいる。
華奢な肩は、自然なままで撫でている。
短くした事で露になった首元が、白い。
夏服の襟から覗く鎖骨に、そそられる。
でも、どこにナイフを刺したらいいか。
どこから毒針を射し込んだらいいのか。
このまま首を締上げてやればいいのか。
僕には先輩を殺す手立てが思い付かなかった。いや、いくらでも思い付くのに実行できない。それは、僕がもうこんな事をしたくないと思っているからで、足を洗いたいと思っているからで、けして、けして、間違っても……。
僕は、先輩の体に指ひとつ触れる事なく、唇だけを触れさせた。
間違っても、先輩の事を好きだなんて、思っていない。
でも、できない。
僕には、できない。
……なんで。
頼まれれば、誰だって手にかけてきたのに。
先輩だけが例外じゃないのに。
ナイフは右のポケットに、毒針は左にちゃんとある。
でも、僕は先輩にくちづけをする意外の行動を、取れなかった。
最初のコメントを投稿しよう!