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唇を離した瞬間、あまい香りがふわりと漂った。
僕は座っている先輩に合わせるために屈めていた腰をゆっくり伸ばし、あとずさる。
目を開けた先輩は、幸せそうに微笑んでいた。
「ほらね」
「違います」
何が違うのか、説明はできないけど。そんな勝ち誇ったような視線を向けないで、逃げ出そうとする僕の手を掴まないでほしい。
「好きなのに、嫌いと言ったり」
「好きじゃないですが、嫌いとは言ってません」
歌うような先輩の滑らかな声色が、胸に染みる。
「やめたいのに、やってみたり」
「もう、嫌なんです」
責めるんじゃなく、受け止めるようなまなざしで。
「触れたいのに、離れようとしたり」
「触りたくなんかないです、なんにも……」
包み込むような、愛情で。
「君はきっと、私を殺すわ」
細い腕で、体で僕を、抱きしめた。
僕は先輩に触れないように、夏服の袖の先を摘まんで、握る。
こんな、ちぐはぐした関係は、気持ちは……。
僕は、どうしたらいいの。
*end*
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