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なんて思っていたのに、快適時間の終了は唐突にやってきた。
「どうしてよ」
右耳のイヤホンがはずされ、耳元でささやかれる女性の声。こんなに明るいうちから、まるで心霊現象さながらの恨み、辛み、蔑み、苛み、妬み、憎しみがさらさらと注ぎ込まれてくる。
さすがに、クーラー効きすぎじゃない? なんて冗談も言えないくらいに全身がゾゾソッと粟立った。
「さすがにそこまで暑がりじゃないですよ、先輩」
僕は震える手からペンを離し、先輩の気遣いに応えた。右の方へ振り返ると、心霊現象さながらに顔を青白くした三年生女子の先輩がイヤホンを摘まんだままこっちを見ている。
「なんの話よ?」
「はじめの問いかけに対して、僕はそれそのままの返答をしたい所なんですが……あれ、先輩、髪は?」
髪は? なんて聞き方が悪すぎる事くらいいくらなんでも僕にだってわかっていたけど、驚きすぎて省略してしまった。
夏休みに入るまでは腰の辺りまであった長い髪が、今見ると肩の上でさっぱりと短くなっているのだ。
「失恋でもされたんですか……?」
「君って人は……っ」
青白い顔に少しだけ生気が戻ったように見えた。
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