0人が本棚に入れています
本棚に追加
それは、全員、給水を3時間に1度しかしてはいけないというものだった。どんなに暑かろうと、だ。馬鹿な意見だと思うでしょ?顧問曰く「強豪はこれくらいしてる。お前たちに足りないのは忍耐力だ。」何言ってんの。真夏に熱中症になったらどうするの。曽良東中の体育館にエアコンがないのくらい知ってるでしょう。
私は恵真に抗議した。部内は恵真率いる賛成派と私、香蓮率いる反対派に分かれてしまった。
『これはもう決定事項なの。3時間くらい給水しなくても香蓮、大丈夫だよね?』
『真冬の話でしょそれは。ネズミがライオンのふりして熊を襲ったって勝ち目はないよ。』
『はあ?あんた今この部活のことネズミって言った?』
『言ったよ。現状を理解することは必要なことだよ。恵真と先生が馬鹿なの。もっとよく考えて。』
『香蓮に馬鹿って言われたくない』
こんな感じに。そしてそのまま勢いで帰ってしまった。
ぼんやりと目の前に沈みゆく夕日を見た。怒ったときはお日さまが沈む前に仲直りしなければならないと言ってたのはお母さんだったっけ?すごい母親だと思う。子供をあそこまで完璧にだませるというのは。だいたいそれって夜に喧嘩したらどうするんだって話だし、私は恵真と1週間喧嘩して仲直りしたことなんて何回もある。
ただ今はその言葉が心に強く絡みついている。なぜだろう。それを言われた場所と同じ道で同じ夕日を見ているからだろうか。
私たちは、あの夕日が沈む前に仲直りしなければ・・・もう元の関係に戻れないのだろうか。
ばかばかしい。ちょっとくらい喧嘩したって大丈夫だよ。
そこではっとした。いつの間にか足が止まっている。
あの時の私と今の私は違うはず。今の私はお母さんがいなくても恵真と仲直りできるよね?
息をつく。この考えはどこから出てくるの?いつもの私じゃないみたい。まるでこの道と夕日が語りかけてくるみたい。
最初のコメントを投稿しよう!