29、ベツ離

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深見さんはまた「ふんっ」と鼻で笑うと、教室から出ていこうとドアに手をかけようとしていた。 「深見―…さん!」 私は、大きな声で呼び止めていた。 「何ですか―…?」 「あの……」 「だから、なに?」 「自分をもっと大事にしてあげて―…見失わないで、見つめてあげて……っ」 こんなこと、偉そうに言うつもりはなかったけど、深見さんに対して何か言葉をかけてあげられずにはいられなかった。 「はぁ……?」 彼女は顔を歪めて私を見たけれども、これは本当に私の教師としての言葉だという想いで見つめると、 唇を噛むようにして、ふいっと私に背を向けて教室を出て行ってしまった。 私も、そろそろここを出よう。 もう一度、教壇からこの四角い空間を見渡して、教室を出ていく。 職員室に戻って、他の先生たちに挨拶をして、大きな紙袋に残った荷物を入れて、 帰ろう。
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